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櫻井弁護士

中央大学内の法務全般を担当するインハウスロイヤー「法実務カウンセル」も兼務しております、千代田区・青梅市の弁護士法人アズバーズ代表弁護士の櫻井俊宏です。

著作権法35条が改正され、学校が、ZOOM等のオンラインツールによる公衆送信で講義を行うことにつき、SARTRASという団体に一括して補償金が支払われることになりました。
学校がSARTRASに補償金を支払った場合、どのようなことができるのでしょうか。

・SARTRASはなぜ創設されたのか
・SARTRASに支払った場合どのような利用の仕方が認められるのか
・どの程度の分量の創作物が利用できるのか
・学校内の講演等でも利用は可能か
・公衆送信を行う上での注意点

等についてお話します。

1 SARTRASはなぜ創設されたのか

著作権法35条が創設されたことにより、相当な額の補償金を支払えば(著作権法35条2項)、学校で、教材を複製する場合や、ZOOM等でオンライン講義をする等の「公衆送信」を自由に行うことができるようになりました。

しかし、学内でこのように著作物を利用することは大量になります。
これら全部について、著作権者を探し出し、補償金を支払うのは困難が伴います。

そこで、各学校が、年間の教育について、その学校の学生数に応じて一括して支払い、それを著作者に支払う業務を統括する団体として、SARTRAS=一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会が設立されました。

その補償金は、1人につき数百円程度です。

なお、コロナ禍でできたこともあり、2020年はオンライン講義が重要であったことから、同補償金は、2020年度は免除されることになりました。

2 SARTRASに支払った場合どのような利用の仕方が認められるのか

著作権法に規定されている「複製」「公衆送信」という利用方法が認められます。

複製とは、そのままコピーすることです。教科書をコピー機でコピーすることが典型です。ボードに文学作品の内容をそのまま書き込むこと等も含まれます。

公衆送信とは、ZOOM等のオンラインツールで著作物を流すこと、メールで著作物を送信すること、著作物をYouTubeで流すこと等、インターネット等で著作物を送信することです。

3 どの程度の分量の著作物を利用してよいか

SARTRASに補償金を支払えば、無制限に使うことができるのでしょうか。
これについては「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」にならないような利用が必要です。必要最小限の使い方をするということです。

例えば、複製部数やメール送信数は、担当する者と履修者の合計人数を超えないようにするべきです。また、明らかに購入してもらうことを想定されているドリル等は利用を控えた方がよいでしょう。

利用するコンテンツの分量については、その著作物の中の「小部分」の利用にとどめるべきとされています

改正著作権法第35条 運用指針

「小部分」については、SARTRASの運用指針も、現在、具体的な基準を模索している状況です。

4 学校内の講演等でも利用可能か

学校が補償金を支払っているのだから、学校の中での、一般の方に対する講演等も対象に入るではないかと考えられるかもしれません。
しかし、この著作権法35条は、「教育」を保護するためのものなので、かなり厳格に、カリキュラム内の「授業」が基本的に対象となります。ただし、学内で、「教育」のプログラムを行うために、教職員が学習する講習等は含まれます。

*弁護士法人アズバーズ代表弁護士櫻井俊宏がYouTube幻冬舎ゴールドオンラインチャンネルにおいて著作権等について解説しております。

 

5 公衆送信を行う上での注意点 Q&A

Q1 私的利用

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事務員

履修者に対する著作物のメール送信を行った場合や、事前に履修者がアクセスできるページに掲載しておいたケースで、履修者がこのコンテンツを、例えばSNSに掲載するなど二次利用した場合、学校も責任を負うのですか?

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櫻井弁護士

学校が管理責任を負う場合も存在すると考えられます。
いずれにしろ、違法行為を助長しないように「私的利用以外は禁止」等の注意書きを記載しておいた方が良いと思われます。
もっと慎重にやるのであれば、事前に履修者の同意書をとるのが良いです。

Q2 アレンジを加える

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事務員

作品や画像の内容にアレンジを加えても良いのですか?

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桜井弁護士

もともと著作物を作った著作者には、自分の著作物を変えて公開されたくないという意思を保護する「同一性保持権」(著作権法20条)があります。
この同一性保持権は、著作権法35条の対象外なので、例えば、小説・漫画等にアレンジを加えたものをオンライン講義内でアップした場合には、著作者との関係で、違法となります。

Q3

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事務員

例えば、著作物の作者の写真を無断で使う場合のように、人が写った「写真」を講義内で利用するのは良いのですか?

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桜井弁護士

厳密にいえば、著作者の「肖像権」を侵害することになります。肖像権は、著作権とは別の権利なので、著作権法35条により利用できるわけではありません。ただし、例えば、既にインターネット等にある本人の意思により公表されている写真を使う場合には、違法性は低いです。
慎重に進めるのであれば、事前の承諾を得た方がよいと思われます。
特に、著名人である場合には、その人の外貌につき、金銭的価値が付与される場合(パブリシティ権と言われます)もあり、更なる注意が必要です。

6 著作権法35条で認められない場合どのように利用すればよいか

これにつき、著作権法には、著作権者が著作権を主張できない場合を羅列した著作権制限規定があり、著作権法35条もその一環です。
著作権制限には、他に下記の内容も該当します。

・私的使用のための複製(数人で私的に行うミーティング等で著作物のコピーを使用する。著作権法30条)
・引用(著作権法32条)
・営利を目的としない上演(例えば、文化祭で聴衆からお金をとらず、歌い手が対価を受け取らずに歌を歌う。著作権法38条)

これらの著作権制限の場合を満たして利用すれば問題ありません。

特に、この中では「引用」が利用しやすいです。「引用」は下記の要件を満たす必要があります。

①明瞭区別性
②主従関係
③公正な慣行
④正当な目的の範囲内
⑤出典の記載

明瞭区別性とは、自分の作品の中で、引用している作品がどの部分かを明確にする必要があるということです。(①)引用している部分を枠でくくったりするのが一般的です。

主従関係とは、あくまで、全体の自分の作品自体が主となり、引用している部分は従たる部分でなければならないということです(②)。
その引用の仕方等でどの程度まで引用して良いかは変わってきますが、少なくとも全体の半分ぐらいが引用部分であると、従たるものとは言えないので、違法である可能性が高いといえます。

その他、業界の慣行等を守り、必要最小限に利用する必要があります(③、④)。

また、出典を記載して、明らかにしなければなりません(⑤)。
これは、例えば、
「【引用】~より」
というような感じで記載しておく必要があります。

【参照】

第三十五条 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作物であつて公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

2 前項の規定により公衆送信を行う場合には、同項の教育機関を設置する者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。

3 前項の規定は、公表された著作物について、第一項の教育機関における授業の過程において、当該授業を直接受ける者に対して当該著作物をその原作品若しくは複製物を提供し、若しくは提示して利用する場合又は当該著作物を第三十八条第一項の規定により上演し、演奏し、上映し、若しくは口述して利用する場合において、当該授業が行われる場所以外の場所において当該授業を同時に受ける者に対して公衆送信を行うときには、適用しない。

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