最近、電話相談で多いのが「元カレから今まで使ったお金やプレゼントを返せと迫られているが、どうしたらよいか?」というものです。中には領収書やレシート、スマホ決済系アプリによる一覧を呈示して1円単位で請求してくるケースもあるようです。
そして、現に本記事を見て、男から170万円の請求裁判をされている方から代理人のご依頼をいただき、相手方の請求が1円も認められない完全勝訴したケースもありました。
別れた相手にデート代を請求するなんてみみっちいですね。別れて大正解だと思います。
本記事では、まずプレゼントは贈与契約ではないか、贈与契約について説明した上で、相手からの反論やそれに対する注意点、さらに、置いてきた自己物の取り戻し方にも言及します。
1 交際中もらったものは「贈与」された物なので返さなくてよい
もらったものは、基本的に返す必要はありません。「あげた」「もらった」は、法律上の贈与契約に通常該当します。同契約の内容をみてみましょう。
(1)贈与契約
民法549条 贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。 |
条文を見てわかるように、贈与者の「あげる」という意思表示と、これを「もらう」という受贈者の意思表示によって贈与契約が成立します。
つまり、口約束だけで成立し、契約書の作成や財産の移動も必要ありません。
一方、契約が成立した後に目的財産を「返す」には贈与契約を合意解除しなければなりません。目的物を返すには、両当事者による新たな合意が必要になるのです。
したがって、もらった側が合意解除に応じない限り、贈与契約の効力は続くことになるため、いかに強く催促されても返す必要はありません。
⑵ 書面によらない贈与
交際中の男女であれば、プレゼントやごちそうをするのにわざわざ贈与契約書等を作成しないのが普通でしょう。このような書面によらない贈与については、次のような例外が設けられています。
民法550条 書面によらない贈与は、各当事者が解除することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。 |
そこで「履行の終わった部分」でない、例えば口約束で「あのバッグを買ってやる」と言われていたものについては、あらためて「買って渡して欲しい。」と請求しても、元カレに贈与契約を解除されることになります。
2 例外的に返さなくてはならない場合
書面によらない贈与である場合には、受け取ったら返さなくてよいのが原則です。
ただし、贈与も契約であるため契約一般のルールには服し、取消しや無効の対象となって、もらったものを返さなければならない場合があります。その具体的な場合と、それぞれの注意事項について説明します。
⑴ 意思表示に問題がある
交際中の男女間において問題となりやすいのは、詐欺と心裡留保です。
① 詐欺(民法96条1項)
典型的なのは「結婚詐欺」のような事例です。結婚する意思がないにもかかわらず、結婚をちらつかせて異性に近づき、相手を騙して金品を巻き上げたり、返済の意思もないのに金を借りたりするものです。最近では、婚活パーティーや恋活・出会い系サイト、マッチングアプリなどを利用した「婚活詐欺」や「恋愛詐欺」が行われるケースもあります。
贈与者にしてみれば騙されなければ贈与しなかったわけですから、「あげる」という意思表示には瑕疵があったことになり、これを理由に取消すことができます。
注意点としては、詐欺があった場合取消しを主張する側が、詐欺が行われたことなどを立証しなければならないのが裁判上のルールです。その場合、詐欺に該当する客観的な事実のみならず、行為者の故意(相手が誤解することを知りながらあえて行う意思)も立証する必要があります。この点、ビジネスと異なり交際中は曖昧なやり取りも多く、故意の立証は非常に難しいでしょう。
最近は国際ロマンス詐欺なるものが流行っているようですね。
このような相手の素性も知れないような場面では、弁護士を入れても取り返しは困難…。気をつけましょう。
② 心裡留保(民法93条1項)
贈与者が「貸しているだけで、あげるつもりはなかった」と主張してくることがあります。あげるつもりはないのに、2人の関係上「あげる」とウソをついてしまった場合です。このように真意でないことを承知の上で意思表示することを心裡留保(しんりりゅうほ)といい、法律効果は有効であり、表意者はついたウソに従って履行しなければならないのが原則です。
もっとも、「贈与者はウソをついている」と気付いていながら受け取った受贈者まで保護する必要がありません。そこで、受贈者が贈与者の真意を知っていた、または知り得た場合には、法律効果は無効とされます。
女性ものの洋服やアクセサリー類であれば、「貸しているつもりだった」といった弁解は通りにくいでしょう。これに対して、マンションや高級車などの高価な財産については、贈与者の資産状況や2人の関係性、渡した経緯等から「貸していたのか」「プレゼントしたのか」を慎重な判断が要求されます。
その際も、心裡留保の事実(受贈者の認識も含む)は表意者が立証しなければなりませんよね。
そうですね。もらった側としては、相手の真意に気付いていたことを安易に認めるような言動は慎むべきでしょう。
⑵ 解除条件付贈与
「プレゼント類はあげるけど、別れたら返してね」等の条件を付けていた場合には、「別れる」という条件を充足した時点で、それまでの贈与契約が無効となることがあります。このような法律効果を消滅させる条件のことを解除条件といいます。
交際中の男女間でこのような条件を付けることは多くないと思います。相手のこのような詭弁に対して、カッとなって、思わず「返す」と言ってしまうと、合意解除ととられかねません。冷静に対処しましょう。
仮に解除条件を付けていた場合には、その条件(民事訴訟法上は「付款」)についての立証責任は贈与者側にあります。揚げ足をとられないよう、やはり冷静な対応が必要です。
3 「返せ」とのしつこい不当な要求に対して
法的根拠のない「返せ」には、「いやだ」と断ればよく、特別な行動は必要ありません。そこをあえて弁護士に相談するのは、相手の請求態様に何らかの問題があることが原因と思われます。
・昼夜関係なく執拗に電話やメールをしてくる
・返さなければ職場や実家に行くと脅す
・訴訟を起こすと法的リスクを告知する
・暴力をふるう
・つきまとい行為 など
上記のように、電話やメール等で執拗に「これまでのプレゼントや同棲の生活費を返せ」と要求し、これに対して、録音しながら「うん」と言わせようとする場合もあります。現に、前述の私が依頼したケースがそうでした。あまりにも電話でしつこいから、生返事で言ったというケースです。しかし、そのケースでは勝訴できました。
明らかに了承する返事をすると、それだけで新たな契約(おそらく「和解契約」)の成立となりうるので注意しましょう。
メールやLINE等であれば、証拠が確実なので、成立している可能性が高いです。
また、電話でも相手は録音をとっていると思われるので、裁判を起こされたりすれば、負ける可能性も高くなるでしょう。
単なる嫌がらせ行為については、弁護士からの受任通知ですぐに収まることがあります。また、暴行脅迫等による身体・名誉への危害が認められる場合には警察への被害届の提出や告訴、執拗なつきまとい行為については「接近禁止命令」の申立てといった手段もあります。
あるいは、相手の請求態様に別段問題はないが、「もう会いたくない」「面倒だ」といった場合にも、対話の窓口として弁護士が対応することも可能です。
もはや、相手方は、請求していることによって、別れた相手とつながっていられるというストーカー的思いだけで請求してきていることもあるかもしれません。
このような場合は、弁護士に代理を依頼すれば、本人の熱も冷めてスッと終わることも考えられるでしょう。
4 置いてきたプレゼント
「返さなくてよいのなら、別れた同棲相手のもとに置いてきたプレゼントを取り戻そう」とお考えの方がいるかもしれません。
確かにプレゼントの所有権はもらった側にありますが、現に所持しているのは別れた相手です。黙って持ち帰った場合には相手の所持を侵害することになり、窃盗罪(刑法235条)が成立します。また、許可なく部屋に入り込む行為は住居侵入罪(刑法130条)にあたります。
相手に連絡の上お願いして、着払いで送ってもらうのが無難でしょう。
なお、逆に置いていかれた側も大変です。
所有権は置いていった側にあるので、別れた相手が置いていったものを無断で捨てると、器物損壊罪(刑法261条)等が成立する可能性があります。
相手に着払いで送ってしまうのが良いでしょう。
5 まとめ
このように、いくら別れた相手からさも正当な請求のように言われても法的根拠のない請求に応じる必要はありませんし、不当な要求には屈服すべきではありません。もらったプレゼント類をめぐるトラブルでお悩みの方は、お気軽に弁護士法人アズバーズにご相談ください。
【2024.3.10記事内容更新】