闇バイト強盗。「闇(犯罪)」と「バイト」、どこかアンバランスな感じがしますが、その不均衡が多くの人の人生を狂わせています。
最初にこの言葉が出てきたときは、ルフィ強盗団として狛江の事件がピックアップされていました。最近では、練馬、国分寺等の首都圏のみならず、千葉県等でも数多く発生しております。
ご存じのように、老人のみで居住している家が特に狙われ、今までの強盗とは違い、あえて被害者の身体を傷つけることを厭わない特徴がある、恐ろしい手口です。
本記事では、
・闇バイト強盗の勧誘手口、特徴、認知件数 ・闇バイト強盗の責任 ・闇バイト強盗を途中でやめた場合 |
について解説します。
また、末尾では
・闇バイト強盗被害に遭わないための方策 |
を提案します。
1. 闇バイト強盗とは
闇バイトとは、報酬と引き換えに犯罪行為をするバイトのことです。強盗のみならず、特殊詐欺の場合もあるでしょう。
「闇バイト」勧誘の手口
勧誘手口について、応募者と募集者に分けて見てみます。
応募者
警察庁調べによりますと、闇バイトに、自らSNSを通じて応募したケースが最も多く、次いで知人等からの紹介、さらに大手求人サイト(「エンゲージ」「Indeed」等)からの応募も認められています。このような大手求人サイトは、そのような闇バイトに軽々しく掲載を提供した場合、反社と契約を締結してはいけないという反社条項に違反することも考えられるのではないでしょうか、、
【検索文言】
ここで、最多の「自らSNS上で応募」した場合に用いられた検索文言を列挙します。
・闇バイト、裏バイト ・UD(「受け子」、「出し子」) ・高額報酬、高額バイト ・運び ・お金貸してください 等 |
動機は遊興費、酒・タバコ代、借金返済等です。「楽してお金を手に入れたい」、そんな若者像が見えてきます。
募集者(犯行グループ)側
こちらも公式X、Instagram、FacebookといったSNSが中心です。それ以外にもジモティーや爆サイといった掲示板、さらに電柱に貼られたQRコード、自宅ポストに投函された求人チラシ、求人情報冊子等も利用されています。
【募集文言】
募集文言は次の通りです。
・高額収入 ・安全に稼げます ・犯罪ではありません ・学生可能 ・営業で地方へ出張する仕事 ・ホワイト案件 ・詳しくはDM ・誰にでもできる簡単な仕事 |
このような決まり文句以外にも、他の業務では考えられないような高額な報酬の提示、業務内容が不明確、募集内容から要求される資格や経験が不問といった特徴が見られます。
【身分証明】
そして、応募してきた相手に対して身分証明を求めるのが通常です。学生証、運転免許証、マイナンバーカード、キャッシュカード以外にも、不必要な家族情報まで求められた事案もあります。もちろんこれは後の脅しのネタにされるわけです。
【通信手段】
情報のやりとりの手段として使われるのが、Telegram、Signalといった匿名性の高いメッセージアプリです。これらは通信後一定時間経つと自動的にメッセージが削除され、復元が難しいという特徴があります。
闇バイトの特徴
勧誘から犯行までの流れはおおむね以下のようになります。
①バイトを探す者自らがSNSで「高額報酬」等を検索し応募する ②犯行グループから連絡が入り、その後は匿名性の高いアプリでやりとりが行われる ③応募者は犯行グループに言われるがまま個人情報を送信する ④犯罪行為への加担を拒否すれば個人情報をもとに犯行グループから脅迫される ⑤犯行に及ぶ |
このように20代を中心とする若者が、浅はかな動機で相手を確かめずに軽い気持ちで連絡をとったところ、個人情報を奪われてやむをえず犯行に加担してしまう。すると、今度は集団の中で自分だけやめる(足抜け)ことが難しくなり、結局、逮捕されるまでやめられない、これが闇バイトの実態です。
近時では勧誘の手口も巧妙化しており、怪しまれないよう大手企業や官公庁を装ったり報酬額を常識的な範囲に設定したりと、見抜くことが難しいケースもあります。とはいえ、最大の特徴は匿名性の高いアプリに誘導されることです。その時点で疑ってみるのがポイントとなります。
闇バイト強盗の認知件数
現時点(令和6年11月)では闇バイト強盗に特化したデータはありません。そこで令和5年の侵入窃盗・強盗の認知件数(警察庁発表)を紹介します。
認知件数
・侵入窃盗
平成15年以降減少してきましたが、令和5年は4万4,228件で前年比+20.9%と増加しています。
侵入強盗については平成16年以降減少傾向にありましたが、令和5年は414件で前年比+42.8%とこちらも増加しています。
これは、闇バイト強盗の広がりが影響してそうにも思えますね。
発生場所
侵入窃盗では戸建住宅が30.5%と最も多く、次いで一般事務所、生活環境営業所(パチンコ店、ホテル・旅館、深夜飲食店等)と続きます。
侵入強盗についても、一戸建住宅が20%と最多、次いで共同住宅(3階建以下)、共同住宅(4階建以上)の順で、住宅が全体の36.7%を占めています。
手口、態様
侵入窃盗では空き巣が最も多く、約1/4を占めます。
侵入強盗では宅配業者を装う、窓ガラスを破壊して住宅に押し入る等の悪質な手口による侵入強盗事件が多発しています。
さらに被害者に危害が加えられる身体犯(強盗殺人・致死、強盗傷人、強盗・不同意性交等)が、令和4年から2年連続で増加しています。
2. 闇バイト強盗の刑事責任
強盗犯グループに加担した闇バイトの刑事責任を確認しましょう。
刑罰と実際の判決
侵入強盗に関連する犯罪です。
罪名(刑法条文) | 法定刑 |
住居侵入(130) | 3年以下の懲役又は10万円以下の罰金 |
強盗予備(237) | 2年以下の懲役 |
強盗(236) | 5年以上の懲役 |
強盗致死傷(240) | (負傷)無期又は6年以上の懲役 (死亡)死刑又は無期懲役 |
強盗・強制性交等(241Ⅰ) 同致死(241Ⅲ) |
無期又は7年以上の懲役 (死亡)死刑又は無期懲役 |
実際の判決
広域強盗「ルフィ」事件では、強盗致傷事件等5つの事件で運転手役等を務めた男が懲役13年(東京地判令和6年10月24日)、4つの事件で強盗致傷や逮捕監禁致傷等の実行犯として罪を問われ男が懲役10年(大阪地判令和5年3月24日)を言い渡されています。
特に大阪地裁の被告人の場合、報酬として示された金額は600万円、しかし実際に受け取ったのは移動代に充てた約19万円のみ、まさに「捨て駒」であり気の毒ですらあります。
途中でやめた場合
「応募したがどうも怪しい」、「何かヤバいことをやらされている気がする」等、少しでも違和感を覚えたら一刻も早く家族や警察に相談することです。犯行からの離脱が早ければ早いほど罪責が軽くなるからです。順を追って説明しましょう。
①準備段階
逃走経路の下見や凶器や懐中電灯等の道具の準備等、強盗のための準備が開始されれば強盗予備罪は既遂です。準備の途中でやめても強盗予備罪が成立するのです(最判昭和29年1月20日)。
ただし、強盗罪とは異なり強盗予備罪は執行猶予付き判決の対象です。従って、この段階で引き返すことを強く勧めます。
②犯行開始後
複数人が共同して犯行に及ぶ場合、「自分だけではないから大丈夫」と罪の意識が鈍化し、かえって刺激し合うことで重大な結果が生じやすいという特徴があります。このような事象から、たとえ自分が直接行為をしなくても他のメンバーが行った行為については共同して責任を負うというのが刑法の考え方です(共同正犯、60条)。
そして一旦メンバーの一員として通じ合えば、犯罪実行中に思いとどまってその場から離れたとしても、残りのメンバーが引き起こした結果について責任を負います。すなわち、財物を奪い取った場合は強盗罪、被害者が負傷・死亡すれば強盗致傷・殺人罪の責任を負うのが原則です。
共犯からの離脱
ただし、離脱することを伝えてメンバー全員の了承を受け、かつ、他のメンバーによる犯行継続を阻止する等して共犯関係を解消したといえる場合(最決平成元年6月26日)には、中止犯が成立し、刑が必ず減免されます(43条但書)。
とはいえ、犯行のたびにメンバーや役割が変わり、しかも脅される立場にある「闇バイト」が、このような措置をとるのは難しいと思われます。
③犯行終了後
犯行後グループから脱退しても、関与した犯罪の責任は免れません。逃げて隠れるにしても、強盗罪の公訴時効は10年、強盗致死傷罪では公訴時効がありません。
少しでも刑を軽くしたいのなら「自首する」の一択です。自首にあたっては事前に弁護士と相談し、証拠集めや示談の手配、そして家族の保護についても説明を受けるとよいでしょう。
私は、これらの点に関して、今後、特に国は対策を講じるべきであると思います。
すなわち、闇バイト強盗に手を染めた者が、主犯等について告発してきたときに、その者の身体の保護をすることや、その者の罪を軽くするという措置です。
このような措置が講じられないと、抜けられなくなってしまった者による犯行が拡大していくばかりです。
3. 被害に遭わないために
世間を震撼させている闇バイト強盗ですが、無差別に行われているわけではありません。実は狙われる家には狙われるだけの理由があります。
狙われやすい家
狙われやすい家についてまとめました。
・家が目立たない位置にあり、周囲が雑然としている ・高い塀や木等、隠れやすい場所がある ・照明が少なく、夜間は真っ暗 ・ドアや窓が多い、ベランダがある ・雨どいや室外機等、足場になるものがある ・高級車が常に駐車されている ・家族構成がわかる洗濯物等が目につきやすい ・高齢者や一人暮らしの家だと周囲に知られている |
今一度、家周りを点検することをお勧めします。
訪問営業への対応
さらに、事前に下見のようなことが行われているケースが報告されています。飛び込みのリフォーム業者や通信業者を名乗る者を家の中に上げたところ、数日後強盗の被害に遭ったというものです。
心当たりのない相手は直接対応を避け、必要があればこちらから連絡する旨を伝えて、不用意に家に上げないようにします。
防犯グッズの活用
宅配を装った押入りを防ぐためには再配達を避け、宅配ボックスや置き配を積極的に利用します。
なお、下見をした犯行グループにとっては防犯カメラの存在は折り込み済みです。それよりも、一般的に建物への侵入は「5分以上かかったら諦める」とされているため、扉に南京錠を付けたり、窓に防犯フィルムを貼ったり等、侵入に時間をかけさせる工夫が重要です。
固定電話の対策
昨今の特殊詐欺対策の厳重化を受けて、詐欺集団(「オレオレ詐欺」等)がコストパフォーマンスの高い強盗にシフトしていっているのが現状です。また固定電話の場合、在宅状況や家族構成を知る手がかりにもなってしまいます。そこで固定電話対策も重要となります。
留守電機能設定のほかに、各電話会社による特殊詐欺対策アダプタサービスへの登録、高齢者向けのナンバーディスプレイの無料提供、場合によっては電話番号変更を検討するのもよいでしょう。
それ以外にも、多額の現金を家に置かない、SNS等で私生活を露出しない、近隣住民と連携をとるといった取り組みも効果的です。