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千代田区・青梅市の弁護士法人アズバーズ代表、マンガ・ゲームも好きな弁護士の櫻井俊宏です。
中央大学では、法務全般を担当する「法実務カウンセル」として、学術論文の著作権等、著作権の法律問題も良くてがけております。

私はどちらかというとFF派なのですが、ドラゴンクエスト、いわゆる「ドラクエ」は、1~9まではやりました。
そのうち、1~5ぐらいは、世代真っ只中なので、かなり繰り返しやり、周辺作品も抑えました。やっぱり購入のために大行列したⅢが一番印象に残っているかな。

この中で、当時私も見た久美沙織先生の小説の中で使われていた「ドラゴンクエストⅤ」のキャラクター「リュカ」の名前を、ドラゴンクエストⅤの映画が利用したとのことで、久美沙織先生がスクエア・エニックス社、東宝を相手に、著作権侵害による訴訟を提起したようです。

スクウェア・エニックス(スクエニ)の人気ゲーム「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」をノベライズした小説の主人公の名前をめぐり、争いが起きている。ゲームを元にした映画で同じ名前を勝手に使われたとして、小説家が映画を製作した会社などに損害賠償を求めた。名前は誰のものなのか。   朝日新聞デジタル

・キャラクターの名前に著作権は成立するか
・本件の経緯と内容
・本件の争いの実態

等について、法律上の問題点について解説します。

1 キャラクターの名前に著作権は成立するか

キャラクターの名前に著作権は成立するか下記の呪術廻戦の記事でお話したように、キャラクター自体には著作権は成立しません(最高裁平成9年7月17日判決。通称「ポパイ事件」判例)。

その理由としては、キャラクターと言われるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格というべき抽象的概念であって、具体的表現そのものでなく、それ自体が思想または感情を創作的に表現したものということができないということです。
キャラクターの絵について「絵画の著作権」が成立するのみであり、キャラクター性には著作権が成立しないということです。
その一つ一つの絵ごとに判断するということになるので、キャラクターの性格が似ていても、絵の構成、例えばポーズ等が違う場合には著作権侵害はないということになります。

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事務員

では、キャラクターの名前に著作権は成立するでしょうか。

例えば、名前という意味では、小説の題名や歌の題名には、裁判例上、著作権は成立しないようです。
名前は通常著作権が成立しないような短いものであり、著作権の要件である「創作性」が通常ないことになるのがその理由です。
下記の瑛人さんの「香水」の記事で、説明しております。

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櫻井弁護士

なお、小説の題名や歌の題名の場合、商標登録されていて、商標権違反になる場合は考えられるので注意が必要です。

短い言葉に対する著作権が成立する場合として、
・俳句も高度なものだと著作権が成立するような場合もあるそうです。
・交通標語「ママの胸よりチャイルドシート」が「ボク安心 ママの膝(ひざ)より チャイルドシート」という標語の著作権を侵害しているとはいえないと判断されました。
・裁判例上の「ラストメッセージin最終号事件」では、
「あたたかいご声援をありがとう 昨今の日本経済の下で〇〇は,新しい編集コンセプトで再出発を余儀なくされました。皆様のアンケートでも新しいコンセプトの商品情報誌をというご意見をたくさんいただいております。〇〇が再び店頭に並ぶことをご期待いただき,今号が最終号になります。長い間のご愛読,ありがとうございました。」
という部分について著作権が成立していると判断されています。

いずれにしろ、キャラクターの名前も短いので、通常は著作権が成立しないことになります。

実際にマレーシア在住のアーティストが、「クッパ姫」という、スーパーマリオブラザーズのヒロインピーチ姫をアレンジした容貌と、敵のボス大魔王クッパの名前を冠するキャラクターを利用した二次的創作物を作成していますが、法律的な問題とはなっておりません。

2 本件の経緯と内容

本件の経緯と内容本件では、ドラゴンクエストⅤの映画は、主人公キャラクターとして「リュカ・エル・ケル・グランバニア」通称「リュカ」としたそうです。

これに対して、久美沙織先生のドラゴンクエストⅤは、「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」で通称「リュカ」としていました。

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言うまでもなく、真似であることは間違いありません。しかし、名前単独だと、短いので、著作権と言うには難しいでしょう。特に「リュカ」だけでは当然認められません。

「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」は、少し長く個性的ではあります。
「リュカ・エル・ケル・グランバニア」に変更したのは、著作権の中でもアレンジを加える「翻案権」(著作権法27条)、もしくは著作者の変えてほしくないという気持ちを保護する著作者人格権の同一性保持権(著作権法21条)違反が問題となるでしょうか。

しかし、これ単独では、侵害とするのはやはり難しいでしょう。

久美先生は、
「繊細で優しいけれども勇敢な大人に成長していく主人公にふさわしい名前を考えた。響きや字面なども意識した。」
とおっしゃっているようですが、そこまで考慮してもらう、または小説ドラゴンクエストⅤの作品全体の意味合いが「リュカ」の中に込められており作品全体と一体となって著作権侵害が成立する、というような判決にならない限りは、著作権侵害となることは難しいように思います。

しかしながら、漫画やゲームのキャラクターが実際の人間と同じ、又はそれ以上の存在となっている昨今において、例えば、「モンキー・D・ルフィ」というキャラクター名が、そのまま同じ名前のキャラクターに他の漫画で使われていたら、問題あるなということになるはずです。
このことからすると、漫画やゲームのキャラクター名に対し、一切権利が生じないのは時代にそぐわないようにも思います。

*弁護士法人アズバーズ代表弁護士櫻井俊宏がYouTube幻冬舎ゴールドオンラインチャンネルにおいて著作権等について解説しております。

3 まとめ 本件の争いの実態

久美先生は、自分の名前を映画の最後に出してほしいと言っていただけと聞いています。
素晴らしい作品だったのでしょうし、それぐらいはしてあげれば良かったのにな、と思います。
こじれて訴訟にまでなってしまいました。

どうも、テルマエ・ロマエの映画について、漫画の原作者に100万円しか支払われていないと言われている件といい、映画化における原作者への経緯が欠けている風潮が見られるように思います。

そして、遂に漫画原作のドラマ「セクシー田中さん」の作者は、自分が容認できないような内容のドラマ化をされてしまい、自死されるという痛ましい事件まで起こってしまいました。「砂時計」というとても有名な作品を執筆された方です。
このような事件が起こってしまったのは、漫画原作者が当然のように尊重されないドラマ化・映画化の現場の実態があるようです。

有名な「ブラックジャックによろしく」を執筆された佐藤秀峰先生も、「海猿」のドラマ化現場において、主演者にとても嫌な態度をとられたと明かしています。

「クールジャパン」と呼ばれるほど漫画等のコンテンツが優れた日本であるのに、原作者が尊重されないというのはおかしな話です。
最近は、映像で新しい画期的なコンテンツを作成するのも難しく、昔の一流作品の映像化が頻発しております。この業界のいびつさを改善しないことには、スムーズな映像化は難しいでしょう。

漫画大好き弁護士として、これらの事件が、業界を改善されるきっかけとなることを切に望みます。

【2024.2.9記事内容更新】

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