最近は、正当性がなく、ただわめきちらすだけ等のいわゆる「モンスタークレーマー」が増えています。
生徒・学生の父母(モンスターペアレント)、客(カスハラ)、道を歩いている相手や電車の他の乗客への突然のクレーム等、あらゆる場面でモンスタークレーマーの増長が見受けられます。
コロナ禍である現状では、飲食店で「マスクをしてください。」と言われると、「個人の自由だろ」と喚き散らす者、スーパーやコンビニエンスストアでマスクや遮蔽のせいで声が聞こえないと怒りだす者等、新たなタイプのモンスタークレーマーやカスタマーハラスメントが増えています。

もちろん、正当なクレームは会社組織にとって宝と言えます。

正当なクレームの内容にはその企業の問題点、向上のもとが詰まっています。

また、クレームに対して丁寧に対応することにより、クレーム前よりもその企業のイメージがよくなるということが往々にしてあります。

しかしながら、正当とは言えないモンスタークレーマーは、組織の従業員に肉体的・精神的・時間的にダメージを与えるようなものもあるので、毅然と対応する必要性が見直されています。
このようなモンスタークレーマーに対する対応法について、法的な観点を交えつつお話したいと思います。

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中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、
千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、
弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 モンスタークレーマー・カスハラに対する録音の重要性

モンスタークレーマー・カスハラに対する録音の重要性

まずは録音を最大限活用することが重要です。

その後、裁判等の法的紛争になった場合を想定して、証拠収集のため録音をすることは必須です。
相手に録音していることを伝えない「秘密録音」の方式であっても、後々の裁判の証拠として使うことができます。もちろん個人が録音をすることは犯罪等にはなりません(裁判所内では罰則がありますので要注意。刑事訴訟法規則215条)。
まだ録音を無断ですることは良くないことだと思っている人もいるようです。
しかし、ドライブレコーダーや監視カメラは、証拠を残す主義の走りのようなものですし、これからは、常に録音・録画ができる身につける器具ができて、AR器具と共に「国民総録音時代」が来てもおかしくないと思います。

威圧的に話してくる相手には、「あえて録音をしていることを伝える」のも良い手です。
理由は後でお話します。

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基本的にメールで対応するべきでしょうか?それとも電話で対応するべきでしょうか?

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証拠という観点からすると、やりとりはできるだけ書面かメールのように、証拠として形に残るものでやりとりをするのも重要です。

ですが、伝えるべき内容が、相手を怒らせないようにすべき繊細な内容であれば、むしろ書面やメールではやりとりをしない方がよいです。
書面やメールではニュアンスが誤って伝わってしまい、また冷たく感じるので、相手の怒りを増幅させてしまう場合が多いからです。

 

2 電話によるクレームの対応方法【理由をつけて切る】【かけなおししない】

電話によるクレームの対応方法【理由をつけて切る】【かけなおししない】

電話のクレーム対応においては、モンスタークレーマーに対する場合はある程度毅然とした対応が必要かと思います。
調子に乗らせるとどこまでも激しく話してくるからです。

前述のように、録音をしていることをあらかじめ伝えるのも一つの方法です。
今後の対応の向上のためにこの電話は録音させていただいております。
というような感じで最初に告知すれば良いと思います。
断られてもこちらで秘密録音をしてしまってください。

このようにあらかじめ録音していることを伝えておくと、録音されていることを意識し、大声を出したりしないなど、クレームの態様が穏和になることが多いです。下手すると、犯罪として逮捕されるかもしれないと恐れるからです。
嫌なことを強く言われ続けるとそれだけで被害者は精神的に参ってしまうので、これは有効な手段であると思います。
実際、録音している、そのことを伝えているという安心感が、受け手の側のストレスを軽減させることもできるものです。

クレーマー側が、何時間もしつこく話してくるような場合はそれにお付き合いしてはいけません。
対応者のメンタルに影響を与える上、業務の進行が妨害されるし、また、話せば話すほど後にこちらに不利になる情報を相手方に与えてしまうことにもなりかねないからです。
実際、客相手であったとしても、特にその話に最後まで対応しなければならないという法的義務はないです。

「他の予約されている方がいらっしゃったので、いったん電話を切らせていただきます。」

「これから外出しなくてはならないのでいったん電話を切らせていただきます。」

というようになるべく早いうちに穏便な言い方で終わらせるとよいと思います。

この場合、別件が終わったらかけろ、折り返し電話しろと言われても、
必要であればお電話いただければと思います。
などと伝え、折り返しの連絡の約束をしない方がよいです。相手が増長するからです。
基本的には、あくまで何か要求する側、すなわちクレームの場合はクレーマー側に「ボール」があることを意識してください。

幻冬舎で櫻井俊宏弁護士が執筆したこちらの記事も参照してください。
謝れと叫ぶ中年モンスタークレーマーを黙らせた意外な一言

3 クレーマーとの電話における話し方のコツ

クレーマーとの電話における話し方のコツ

クレーマーは、畳み掛けるように話しますよね。
そのまま聞いていると、こっちが悪いような気分になってきます。
そこで、ついついヒートアップして言い返してしまうことが多いと思います。

しかし、余計な話はせず、ただあいづちを打ったりする方が良いです。
なぜならクレーマー状態になっている人は、何を言ってもヒートアップしている状態なので、話せば話すほど、火に油を注ぐ可能性が高いからです。

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また、相手も録音をしていることが多いです。
このような場合、こちらに不利な言質を無理にとらせようとすることします。
そこで、こちらに不利な発言がなるべくないように、こちらの発言は必要最小限がよいと思います。
ひたすら聞き手に回って、相手が何も言わなくなっても、沈黙を続けてしまってもよいと思います。私は良くやります。

これについて、こちらに不利なことを一方的に言ってきて、「うん」とか「はい」とかあいづちを打たせて了承したかのようにさせるように狙ってくるクレーマーもいます。
「今『はい』って言ったよな!?」
という感じの人です。

このような場合、あいづちを打っただけです、と答えるのも良いですが、そもそも「はい」ではなく「ええ」等であいづちをうつというのも一つの手です。
「ええ」だと肯定の意味とはなりにくいというわけです。

いずれにしろ、ここまで問題あるクレーマーの場合は、早くやりとりを終わらせたいところです。

「もうお電話でお話しすることはありません。」

「要望があれば書面で送ってください。」

「お話しすることはないので法的措置を執ってくださって構いません。」
という感じでばっさり切り上げてください。

実際に法的措置、すなわち裁判等をされても負ける場合はほとんどないです。従業員の皆様のメンタルを守ることの方が重要です。
なお、それでも執拗に電話をしてくるような相手の場合は、弁護士に頼んで、内容証明郵便で「受任通知(弁護士が代理人として就いたので、今後の連絡は全て弁護士にしてください、という内容の通知)を送ってもらうと良いでしょう。クレーマーは、自分に正当性がないことを気づいていることが多いので、これで全く連絡がなくなるということも良くあります。

顧問弁護士を務める企業の件で、良くこのように書面を送りますが、だいたいすぐ連絡が来なくなります。

法的な責任を認めない回答をするというのも非常に重要です。
責任を認めてしまったことを録音されると、後に裁判等で不利になるので、謝る場合でも、

「迷惑をかけてしまって申し訳ありません。」ではなく、

「ご不快にさせたようなら申し訳ありません。」

という言い方で逃れた方がよいです。

4 クレームが刑事犯罪に当たるような場合【脅迫罪 業務妨害罪】

クレームが刑事犯罪に当たるような場合【脅迫罪 業務妨害罪】

よく、クレーマーが店員に土下座させて、強要罪で逮捕されることがありますね。

電話でも、「夜外を歩くときに気をつけろよ。」みたいなことを言ってきたら、これはもう刑事上の脅迫罪(刑法222条)にあたるので、録音したまま「脅迫ですか!?」と強気に言ってください。
クレーマーは、被害届、刑事告訴等の法的措置に出られるのではないかと思い、ひるむ場合が多いです。
それでも止まらなければ、警察に相談してもよいと思います。

あまりにもしつこく電話をしてくるような場合は業務妨害罪(刑法234条)にあたるようなこともあるのですが、裁判例上も、3か月で約1000回電話をしてきた場合等、極めて執拗な場合に限られます(東京高判昭和48年8月7日裁判例)。

ただ「業務妨害で被害届を出しますよ。」ということを伝えるのは、やはり相手がひるむので有効だと思います。

 

5 まとめ:最後に 「お客様は神様」ではない!

昔は、「お客様は神様」などという言葉もあり、このようなモンスタークレーマーも大事にしなくてはならないという風習があったように思います。
今までもこのようなモンスタークレーマーはいっぱいいたのでしょうが、最近になってようやく問題となってきました。
特に、日本の場合、他の国よりもモンスターに丁寧に対応しすぎのような気がします。
他の国では日本のようなバカ丁寧な対応はしていません。

客と店員も単なる契約当事者同士であり、客に対しては全てきっちり対応しなければならないというものではありません。

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ここまで述べてきたように、従業員が健全に働くことができる労働環境を整えるのも企業の責務です。
モンスタークレーマーに対しては毅然と対応しましょう。


【2024.3.22記事内容更新】

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