こんにちは。弁護士法人アズバーズ三郷事務所所長の津城です。
今回は交通事故に関して、訴訟基準差額説を解説します。
訴訟基準差額説とは耳慣れない言葉だと思いますが、どのような場面で問題になるのでしょうか。まずは事例を紹介します。
事例1
Aさんは交通事故にあい、1000万円の損害を被りました。Aさんは人身傷害保険に加入しており、その保険金として500万円を受け取りました。Aさんが、加害者であるBに対し、損害賠償として何円を請求できるでしょうか。
この場合はAさんは1000万円の損害から、人身傷害保険で受領した500万円を引いた残りである500万円をBに請求することができます。この場合は問題はないですね。では次の場合はどうでしょうか。
事例2
Aさんは交通事故にあい、1000万円の損害を被りました。Aさんは人身傷害保険に加入しており、その保険金として500万円を受け取りました。Aさんの過失は30%です。Aさんが、加害者であるBに対し、損害賠償として何円を請求できるでしょうか。
さて、この場合まず考えられるのは、損害額の総額である1000万円からAさんの過失相殺額300万円を差し引いたうえで、さらにそこから人身傷害保険により受領した500万円を差し引く方法です。そうすると、
1000万円-300万円-500万円=200万円
が相手方に請求できる金額になります。考え方としてはシンプルな考え方になりますね。
最高裁の考え方(訴訟基準差額説)
しかし、最高裁はこの考え方は採用しませんでした。最高裁が採用した考え方は訴訟基準差額説と呼ばれます。それによると、人身傷害保険で受領した保険金は、その全額を損害から控除することはせず、人身傷害保険から支給された金額から過失相殺によって差し引かれた金額を引いた金額を限度として、損害から控除することになります。上記の例でいうと、控除されるのは、人身傷害保険からの受領額500万円から過失相殺額300万円を引いた200万円に限られます。そのため
1000万円-300万円-200万円=500万円
を相手方に請求することができます。このように解することで、Aさんは、人身傷害保険からの受領額500万円と合計すると、結局過失相殺されなかった場合と変わらない金額を受け取ることができます。
最高裁がこのような考え方を採用した理由として挙げているのは、人身傷害保険の特性です。最高裁は、
人身傷害保険の「保険会社は,交通事故等により被保険者が死傷した場合においては,被保険者に過失があるときでも,その過失割合を考慮することなく算定される額の保険金を支払うものとされているのであって,上記保険金は,被害者が被る損害に対して支払われる傷害保険金として,被害者が被る実損をその過失の有無,割合にかかわらず塡補する趣旨・目的の下で支払われるものと解される。上記保険金が支払われる趣旨・目的に照らすと,本件代位条項にいう「保険金請求権者の権利を害さない範囲」との文言は,保険金請求権者が,被保険者である被害者の過失の有無,割合にかかわらず,上記保険金の支払によって民法上認められるべき過失相殺前の損害額(以下「裁判基準損害額」という。)を確保することができるように解することが合理的である。」(最高裁第一小法廷平成24年2月20日)
とその理由を挙げています。このような人身傷害保険の特性から、上記のような結論を導いたのです。
最後に
過失相殺がある場合に人身傷害保険を受領すると、上記のような考え方に則って相手方に請求する金額を算定することになります。上記のように、少々ややこしい計算方法が必要とされますので、お困りの方は弊所までご相談くださいませ。