裁判員制度とは?どのように選ばれる?制度の内容や流れ、裁判員の心構えについても解説

弁護士業務
櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」千代田事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し11年目を迎える。


平成21年からスタートした裁判員制度。令和3年には大学入学共通テストにも出題されるなど、なじみある制度となりましたが、実際に裁判員になった人は多くありません。

そこで本記事では裁判員制度の定義・目的を確認した上で、

裁判員の

選出方法
欠格、職業禁止、不適格事由
辞任事由
報酬や仕事

を解説します。

また、裁判員裁判の手続き裁判員の心得についてもお伝えします。

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櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 裁判員制度とは

裁判員制度とは裁判員制度とは、刑事裁判に国民から選ばれた裁判員が参加する制度です。

裁判員裁判では、原則として6人の裁判員と3人の裁判官が出席します(裁判員法(以下、「法」と言います)2条2項)。
裁判員及び裁判官がともに証拠等を見聞きし、対等に論議した上で、被告人が有罪か無罪かを判断、有罪であれば刑罰の内容も決めることになります。

その判断の仕方から裁判所が教えてくれるので、「どのようにしたらよいのだろう。」と心配する必要はありません。

裁判員制度の目的

裁判を中心とする司法制度も国家権力の一つ、国民の意識や実生活からズレてしまうのは好ましくありません。

そこで、国民が裁判に直接参加して一般人の良識を判決に反映させると同時に、参加者の過度の負担にならないように短い期間に集中的に審理して裁判の長期化を防ぐというのが、裁判員制度の狙いです。

2 裁判員に選ばれる人・選ばれない人

裁判員に選ばれる人・選ばれない人知りたいのは自分が裁判員に選ばれるのか、辞退できるのかといった点でしょう。

裁判員の選ばれ方

まず地方裁判所ごとに裁判員候補者が選ばれ、その中から事件ごとの候補者、さらに実際に担当する裁判員が選ばれるという三段構えになっています。

前年の10月頃、各地方裁判所が管内の衆議院議員選挙の有権者の中から、くじで選んだ翌年の「裁判員候補者名簿」を作成する

令和5年分の名簿登録者数は、全国で21万3,700人(有権者全体に占める割合は、約500人に1人)でした。

11月頃、裁判所から候補者宛に名簿記載通知と調査票が送られる

辞退を希望する場合(辞退事由は後述)は所定事項を記入して返送します。希望しなければ返送不要です。

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櫻井弁護士

なお、裁判員や候補者であることを公表すること(例 ブログやSNS等に記載)は禁じられている点に注意して下さい(法101条1項前段)。

裁判所が事件ごとに名簿の中から、くじで候補者を選ぶ

裁判が予定される事件ごとに、順次、裁判員候補者が選ばれます。

裁判員を選ぶ手続が行われる6週間から8週間前に、候補者宛に質問票と呼出状が送られる

こちらの通知には、裁判員選任手続の期日と裁判員として参加する裁判の日程が具体的に記載されています。参加が困難な場合には質問票で辞退を希望することができ、辞退が認められる場合には、その旨の連絡がきます。

裁判員選任手続期日

裁判員候補者のうち、辞退を希望しなかった方や質問票の記載のみからでは辞退が認められなかった方は、選任手続期日の当日、裁判所に出頭しなければなりません。手続では裁判長から必要な質問がされた後、弁護人・検察官の意向も踏まえて、最終的には、やはりくじで事件を担当する6人の裁判員が選ばれます。

令和4年には裁判員に 4,413人、補充裁判員に1,527人の方が選ばれており、裁判員等に選ばれる確率は、1年あたり、全有権者の約17,700人に1人程度 (約0.01%)です。

裁判員になれる人・なれない人

裁判員は18歳以上の有権者の中から選任されます。

ただし、次のような人はなることはできません。

○欠格事由(法14条)

裁判をするには能力的に欠如していると考えられる人を欠格としています。

・義務教育を終了していない人(義務教育を終了した人と同等以上の学識のある人を除く)
・禁錮以上の刑に処せられた人
・心身の故障のため裁判員の職務の遂行に著しい支障のある人 等

○就職禁止事由(法15条)

一般の国民の感覚を反映させるという趣旨にそぐわない職業の人を除外しています。

・国会議員、国務大臣、国の行政機関の幹部
・司法関係者(裁判官・検察官・弁護士等)
・大学の法律学の教授等
・都道府県知事及び市町村長(特別区長も含む)
・警察官、自衛官
・逮捕又は勾留されている人 等

○事件に関連する不適格事由(法17条)

・審理する事件の被告人又は被害者本人、その親族、同居人
・審理する事件の証人、鑑定人 等

○その他の不適格事由(法18条)

・裁判所が不公平な裁判をするおそれがあると認めた人

辞退できる人・できない人

広く国民の良識を裁判に反映させるというのが制度目的であるため、選ばれた人は辞退できないのが原則です。

ただし、国民の過度の負担にならないように、次の事項に該当する場合は辞退することができます。

○辞退事由(法16条、政令)

・70歳以上の人
・学生、生徒
・妊娠中
・出産の日から8週間以内
・妻や娘の出産のための入退院の付き添いまたは出産の立ち会い
・重い病気やけが
・親族や同居人の養育、介護
・重要な仕事があり、自分で処理しないと著しい損害が生じるおそれがある
・父母の葬式への出席等、別の日に行うことのできない社会生活上の重要な用務がある 等

3 報酬や仕事はどうなる?

報酬や仕事はどうなる?

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事務員

報酬や期間中の仕事についてはどうなるのでしょうか?

日当や諸費用

○日当

裁判員及び補充裁判員については一日当たり10,100円以内、裁判員選任手続の期日に出頭した選任予定裁判員及び裁判員候補者については一日当たり8,100円以内において、各裁判所が定めた額が支払われます(規則7条)。

たとえば、選任手続が午前中だけで終わり裁判員に選任されなかった方については,4,000円程度が支払われます。

○宿泊料や交通費

宿泊料は、呼出状において宿泊料支給の有無に「有」と表示された方に限り、地域に応じて1泊当たり7,800円又は8,700円が支払われます(規則8条)。

交通費として、鉄道運賃、船舶運賃、航空運賃が支払われます。これ以外の移動手段(バス、自家用車、徒歩等)については、距離に応じて1km当たり37円で計算した金額が支払われます(規則6条)。

裁判期間中の仕事

裁判に参加するために裁判員が仕事を休むことは、法律で認められています(労働基準法7条)。

会社は「裁判員休暇」のような特別の有給休暇を設けることまでは義務付けられていませんが、休んだことを理由に当該社員を解雇等の不利益な扱いをすることは禁じられています(法100条)。

4 裁判員裁判の手続き

裁判員裁判の手続き

対象となる事件

刑事事件の全てが対象になるわけではなく、次のような重大事件のみが対象となります(法2条1項)。

・殺人
・強盗致死傷
・強盗致死傷
・傷害致死
・危険運転致死
・現住建造物等放火
・保護責任者遺棄致死
・覚せい剤取締法違反 等

手続きの流れ

裁判員が参加するのは公判(審理)からです。公判初日から判決宣告までの平均日数は、自白事件では6.2日、否認事件では12.7日となっています。

冒頭手続

被告人の確認(人定質問)が行われた後、検察官が起訴状を朗読します。これを聞いた被告人と弁護人には、言い分を述べる機会が与えられます(意見陳述)。

証拠調べ手続

検察官と弁護人がこれから証明しようとする事実を説明した上で(冒頭陳述)、証拠物の取調べ、証人や被告人へ質問を行います(証拠調べ)。

弁論手続

検察官が審理の結果に基づいた最終的な主張と被告人に科すべき刑罰の種類や程度についての意見(論告求刑)を述べます。弁護人も最終的な主張(弁論)を行います。そして最後に被告人本人の率直な意見を言う機会も与えられます。

評議・評決

裁判員と裁判官が証拠に基づいて被告人が有罪か無罪か、有罪であれば刑の内容について検討し、決定します。その評決結果を裁判長が宣告して(判決宣告)、裁判は終了です。

5 裁判員の心構え

裁判員の心構え最後に裁判員としての心構えや注意事項をお伝えします。

期間中は裁判に集中する

裁判員裁判では原則として6人の裁判員と裁判官が一緒に事件を審理しなければならず、一人でも欠けると裁判ができません。

急病等のやむをえない事情がある場合には裁判所に申出て辞任の手続きをとる必要があります。勝手な欠席は10万円以下の過料の対象です(法112条5号)。

法律知識がなくても大丈夫

細かな法律の争点は事前に裁判所・検察官・弁護人が公判前整理手続ですり合わせており、裁判員は特定人物の行動や事実の有無の判断に専念することになるため、法律知識は必要ありません。

もし、わかりづらいことがあれば遠慮なく裁判官に質問して下さい。

証拠だけで判断する

裁判期間中、ネット検索することは禁じられていませんが、判断する材料は公判に登場した証拠物や証人の証言だけです。裁判員になる前に報道等を通じて得てしまった先入観は、評議を尽くしたり裁判官から指摘されたりして払拭されていくはずです。

裁判員への配慮や保護があるので安心を

遺体の写真等、見た人のトラウマになるような証拠については、写真をイラストに変えるなどの加工が施され、心理的負担を軽くする配慮がされています。

また、何人も事件に関して裁判員に接触することは禁止されており(法102条)、裁判員に頼み事をする、裁判員やその家族を脅すといった場合は刑罰が科せられます(2年以下の懲役又は20万円以下の罰金、法107条)

「白黒」ではなく「黒かどうか」を見極める

「疑わしきは被告人の利益に」というのが刑事訴訟法の原則です。提出された証拠だけでは、犯罪事実があったともなかったとも確信できないときは、被告人に有利な方向で判断します。

刑を決めるときは被告人の再出発を念頭に

被告人が有罪であれば、その社会復帰・更生に関与することになります。刑罰については制裁だけではなく被告人の再出発を頭に置いて、執行猶予か実刑か、何年が適切か、をよく考えて下さい。

秘密は厳守する

法廷で見聞きしたことを家族に話したり、SNS等で公表することは問題ありません。刑事裁判は実際公開されているからです(憲法82条)。

ただし次の事項については秘密を保持しなければならず、漏らした場合は6月以下の懲役又は50万円以下の罰金の対象となります(法108条1項2項)。

○評議の秘密

評議の経過や各参加者の意見の内容、評議の多数決の数等

○裁判員として職務上知った秘密

記録から知った事件関係者のプライバシー、裁判員の氏名等

裁判員裁判では、裁判員に選ばれた人がわかりやすいように、パワーポイント等が多く利用されているようです。また、なるべくわかりやすいような言葉選び、話し方等が工夫されているようです。
また、検察庁では、裁判員に印象が良いようにソフトな雰囲気を作るためなのか、裁判員裁判が始まって以降、女性の検察官採用が多いように思います。

このように、裁判員裁判が始まって以降、いろいろと試行錯誤がなされてきているようです。

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櫻井弁護士

裁判員裁判は司法を知り、人生を考える絶好の機会です。ぜひ積極的に参加して下さい。

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