不動産(土地・建物)の相続放棄とそのデメリット 財産管理人【弁護士が解説】

相続問題について

「親が住んでいた家や遠方にある先祖の土地、相続しても活用しないし管理もできない」

こういった場合相続放棄を検討する方は多いと思います。しかし、相続放棄した不動産の「その後」を知らないと思わぬ不利益を受けることになります。

本記事では

相続放棄の一般的な注意点
いらない建物及び土地の相続放棄
土地についてだけ相続放棄等ができる相続土地国庫帰属法

等について解説します。

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櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 相続放棄するとどうなる?

 

 相続放棄とは、相続人がその相続する権利を放棄する旨の意思表示をすることです(民法938条以下)。表示する相手は家庭裁判所で、相続開始を知った時から3か月以内に申述手続きをとる必要があります。

 相続放棄をすると、その人は初めから相続人でなかったことになります。すなわち、負債等のマイナス財産のみならず預金や不動産等のプラス財産も含めて一切を受け取りません。相続という水の流れを自分の手前で堰き止めるイメージです。したがって、その人の子や孫といった次世代への代襲相続(民法901条)もないことになります。

 

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櫻井弁護士

相続放棄は相続人全員でする必要はなく、各相続人がそれぞれに行うことができます。

2 相続放棄の注意点

 相続手続きの中でも比較的容易にできる相続放棄ですが、注意すべき点がいくつかあります。

(1)処分行為をしてしまうと相続放棄できない 

 遺産を一部でも処分した場合には相続放棄ができなくなります。積極的に相続を承認(単純承認)していなくても、処分行為をした時点で承認したものとみなされます(法定単純承認 民法920条以下)。

ここにいう処分行為とは、相続財産の現状や性質を変える行為、及び法律上の権利関係を変動させる行為のことです。例としては、不動産の大規模な修繕や売却、名義変更、賃貸不動産の賃料請求や遺産分割協議への参加などがあります。さらに相続開始を知ってから3か月間何もせず放置していた場合も法定単純承認にあたります。

(2)相続放棄は撤回できない

 相続放棄が一旦受理されると後から取消すことができなくなります。相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを選択する必要がありますが、葬儀の手配や後片付け、財産の調査などに追われれば3か月は決して長くありません。

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事務員

とりあえず相続放棄したものの後から遺産がプラスに転じたので申述を取下げる、ということはできません。

(3)他の相続人ともめる可能性がある

 相続放棄した結果、他の相続人の相続分が増えたり遺産が次順位の相続人へと移ったりしていきます。

兄弟2人が相続人の場合に兄が相続放棄すると弟がすべてを承継することになり、被相続人の配偶者や子が放棄すると被相続人の親が、親が既に他界しておれば被相続人の兄弟姉妹が新たに相続人になる、という具合です。つまり、始末に困る不動産を別の相続人に押し付けることになるのです。

(4)相続放棄しても管理義務はなくならない

 相続放棄すれば一切から解放されるわけではなく、相続放棄後も次の相続人が管理を始めるまで相応の注意義務をもって相続財産を管理し続けなければなりません(民法940条1項)。相応の注意義務とは自己物と同一の注意をはらうことです。通常の取引等に求められる善良な管理者としての注意義務(民法400条。いわゆる「善管注意義務」)よりは注意の度合いは低いということです。

この管理義務は次の相続人へ向けた責任ですが、それ以外の第三者に対して何ら責任を負わないというわけではありません。とくに不動産の場合、損壊による被害等さまざまな責任が生じます。

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櫻井弁護士

次の段落で詳しくみていきましょう。

3 いらない・売れない建物を相続放棄するとどうなる?

 複数の相続人がいる場合、一人でも相続する者がいれば当該相続人が建物の管理責任を負うことになり、放棄した人の管理義務は当該相続人に引き継いで終了します。

問題は全相続人が放棄した場合です。相続する人がいなくなった建物のその後について解説します。

(1)いらない建物はどうなる?

 相続する人がいない建物は次のような経過をたどります。

① 特別縁故者への帰属(958条の3)

 内縁の妻(夫)や療養看護に努めた者等、相続人ではないが故人と特別な関係にある者を家庭裁判所が特別縁故者と認めて遺産の承継を認めることがあります。もっとも特別縁故者があえて希望すれば別ですが、相続人の誰もが始末に困る廃屋やゴミ屋敷を承継させる可能性は低いでしょう。

② 共有者への帰属(255条)

特別縁故者にも承継されない建物が被相続人とそれ以外の者との共有であった場合、その共有者が放棄された共有持分を引き継ぐことになります。

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櫻井弁護士

しかし放棄後の登記手続きには共有相手の協力が不可欠であり、応じてもらえない場合には登記引取請求訴訟に発展します。

③ 国庫への帰属

 誰も相続・承継することのなくなった相続財産は「相続人があることが明らかでないとき」(民法951条)に該当し、法人とみなされてそれ自体が権利主体となります。これを処分する必要が生じた場合は家庭裁判所が利害関係人や検察官の請求を待って相続財産管理人(関係者や弁護士等が選任される)を選任し、財産の処理手続きを進めるようにします。

 ここにいう利害関係人とは法律上の利害関係にあることが必要ですが、相続放棄した「元」相続人も管理不十分や建物倒壊等を理由とする賠償責任を問われる可能性があるため、選任請求できると理解されています。

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事務員

選任された相続財産管理人が相続人から管理を引き継ぐとともに、相続債権者に債務を支払うなどして清算を行います。

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櫻井弁護士

清算後相続財産に余剰が生じれば、国庫がこれを引き継いで相続財産管理人の任務が終了します。

(2)国庫に帰属するまで続く負担や費用

 相続放棄しても財産管理人に引き継ぐまでは「元」相続人の管理責任は続きます。建物が倒壊し通行人に被害が生じるおそれがあればその修繕、ゴミ屋敷の悪臭等で近隣住民から苦情があれば後片付け、固定資産税の負担等、自己物と同様の管理下に置かなければなりません。

 では、相続財産管理人が引き継げば解放されるかというと、そうとも限らないのです。相続財産管理人が任務を行うには費用がかかり、また報酬も必要です。これらにあてるため、選任請求時に数十万円から百万円の予納金が求められることが通常です。清算後余剰があれば予納金は返還されますが、負の財産が多いことを理由に相続放棄した場合には返還は期待できないでしょう。

4 いらない・売れない土地を相続放棄するとどうなる?

 次に土地の場合はどうなるかを見ていきましょう。

(1)いらない土地はどうなる?

 少しでも資産価値のある土地は近隣土地の所有者にもらってもらう、自治体等に寄付するといった方法を検討します。それでもなお引き取り手のない土地は、原則として上記建物の場合と同様、相続財産管理人を選任、清算、国庫へ帰属という経過をたどります。

(2)土地だけを放棄することができる ―「相続土地国庫帰属法」―

 近年、相続後も名義変更せずに放置され続け、その結果所有者が不明である土地が多発し、土地開発や有効利用の妨げとなっていることが問題視されています。この問題に対処するため令和6年4月より相続発生後3年以内の相続登記が義務付けられる(不動産登記法改正)一方で、相続財産中いらない土地を国庫に帰属させることができる相続土地国庫帰属法が成立し、令和5年4月から施行されます。

 通常の相続放棄なら「一切を相続する・しない」だったのが、同法を利用すれば「他の遺産は相続するが〇〇にある土地はいらない」という選択ができるようになります。

参考:政令案における土地の要件及び負担金算定の概要

(3)相続土地国庫帰属法を利用するための要件

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櫻井弁護士

ただしこの法律、適用されるには細々とした条件があります。

① 申請資格

 同法の利用を申請できるのは相続又は遺贈で取得した土地の一部又は全部の所有者に限ります(2条1項)。売買はもちろん、生前贈与で取得した者も利用できません。申請時には手数料の支払いが必要です。

② 土地の要件

 土地の形状についても様々な条件があります。

承認申請できない土地(2条3項)
・建物がたっている
・担保権などが設定されている
・通路等、他人が利用することが予定されている
・土壌が汚染されている
・境界や所有権の帰属等に争いがある
場合によっては承認される土地(5条1項)
・崖地
・残置物がある
・地下埋設物がある
・管理処分に隣人等との争訟が必要である
・その他政令で定める土地

③ 審査

 相続人による申請後、法務局が審査にあたります。必要に応じて職員が現地調査を行い、その際には協力を求められることもあります。審査後、結果が申請者に通知され、合格した場合には負担金の額も通知されます。

④ 負担金

  負担金額ですが、令和4年8月に公表された政令案では、原則として20万円としつつ、宅地、農地、山林については面積に応じて負担金が変動する仕組みがとられています。目安として「宅地100㎡なら約55万円、田畑500㎡は約72万円、森林1500㎡は約72万円」といった具合です。

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櫻井弁護士

負担金を納付してようやく国に所有権が移りますが、それまで「元」相続人としての管理義務は続きます。

5 まとめ

 いらない不動産を相続放棄するにしても、あるいは相続土地国家帰属法を利用するにしても、すぐに解放されない中で軽くない負担が続き、予想外のトラブルに巻き込まれるおそれもあります。相続不動産の処分にお困りの方は一度当事務所にご相談ください。

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櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」新宿事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し7年目を迎える。

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