自筆証書遺言の保管場所は自宅?法律事務所?法務局?

自筆証書遺言

せっかく書いた遺言書、遺された人たちに読んでもらわなければ意味がありません。しかし生前から内容をオープンにするのも抵抗があります。そこで悩むのが「遺言書をどこに置くか」です。

本記事では、遺言書の保管場所について

被相続人が検討する場合
相続人が探す場合

の両面から、様々な方法へアプローチしていきます。

そして、一部

自筆証書遺言保管制度

についても詳しく紹介します。

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櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 遺言書をどこに保管する?

「遺言書をどこに置こうか」と悩むのは自筆証書遺言の場合です。遺言には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類がありますが、公正証書遺言(原本)は公証役場で保存され、秘密証書遺言は利用がほとんどありません。

思いついた時に気軽に作成できる自筆証書遺言ですが、保管場所も自由に選ぶことができます。そこで自宅から法務局まで、様々な保管場所のメリットデメリットを確認していきましょう。

(1)自宅

自宅金庫、引き出し、本棚など自宅内には書類をしまうスペースがたくさん存在します。これらの場所に保管すればいつでも書き直すことができ、うまく隠せば内容も知られずに済みます。何よりお金がかからないのは大きな利点です。

しかし紛失、破損の危険があり、遺言の内容が不利な相続人に見つかってしまった場合は隠匿や改ざんのおそれもあります。逆に死後発見されない場合には相続手続が進まない、進んだとしても後に遺言書が発見された場合にはやり直すという事態が起こり得ます。このように自宅保存には非常に多くのリスクがあるのです。

したがって遺言書の自宅保存は避けるべきです。事情があってやむを得ず自宅に置く場合はエンディングノート等に遺言内容は書かずにその収納場所を記載し、遺言書自体は厳重に封緘しておきましょう。

(2)家族や知人

 次に信頼できる家族や知人に遺言書を預けることが考えられます。

費用がかからない上に、相続人や受遺者となる親族や知人に預ければ、死後遺言書が発見されないという事態を避けることができます

 しかし紛失や破損のリスクは自宅保存と変わらず、預かってもらう相手を誤れば改ざんのリスクもあります。しかも預けた相手が自分より先に亡くなった場合には発見が一層難しくなります。

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櫻井弁護士

人に預けるのであれば、これら危険性が類型的に低い相手を選ばなくてはなりません。

(3)弁護士

 そこで検討するのは弁護士等の専門家です。

厳格な職業倫理に服する弁護士であれば遺言書の漏洩、紛失、改ざん等の心配がありません。また複数の弁護士や弁護士法人に依頼すれば、個人の事情に左右されずに恒常的に保管業務が維持されます。

 さらに遺言書作成や遺言執行者指定をセットにすることで確実かつ円滑な相続の実現が可能になります。遺言書をいかに万全に保存しても、開封して見たら内容が不明瞭、遺言を実現するにも何から手を付けてよいかわからないという状態では報われません。ここに作成から執行まで一連の流れを相続の専門家である弁護士に任せる意義があるのです。

 デメリットとしては費用がかかる点です。保管料の相場は年間数千円から1万円程度、遺言書作成料は20万円から30万円、遺言内容の執行費用は30万円から内容によっては100万円を超えることもあります。

(4)銀行

銀行を利用する場合は遺言信託と貸金庫の2種類があります。

〇遺言信託

口座のある銀行に遺言書を預けると、相続人が当該銀行に対して相続手続をとった時点で遺言書があることを通知してくれるというものです。

銀行側が相談に応じて遺言書の原案を作成し公正証書遺言とした上で、原本は公証役場、正本や謄本を銀行が預かります。遺言が公正証書化されるため自筆証書遺言ではなくなりますが、遺言の作成から執行までを任せることができ、正本等を銀行が預かることで家族に内容を知られないというメリットもあります。

問題は費用対効果です。保管料自体は年間6000円前後、基本手数料が30万円からプランによっては100万円超えと弁護士の場合と同水準ですが、対応できることに限界があります。たとえば相続人の排除や子の認知等の身分に関する事項は信託の対象外であること、遺産分割で争いになる可能性が高い場合には銀行は遺言執行者になれないといった点です。

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櫻井弁護士

信託契約を結ぶのであれば慎重に信託の範囲を確認する必要があります。

〇貸金庫

貸金庫に遺言書を入れておけば紛失のおそれはないでしょう。エンディングノートや保管料引落が記録された銀行通帳を残しておけば、死後相続人らが気付かないという事態も回避できるかもしれません。費用も年間1万円から3万円程度とさほど高額でもありません。

 しかし貸金庫の開扉には相続人全員の同意が必要であり、一部の相続人からの要請には基本的に応じてくれません。この点遺言執行者であれば開扉することも可能ですが、遺言執行者の指定を遺言でした場合には、肝心の遺言書が貸金庫内となれば最初から躓くことになってしまいます。

 したがって貸金庫には遺言書は保管すべきではありません。

(5)法務局

自筆証書遺言は法務局で保管してもらうことができます(自筆証書遺言保管制度)。法務局(遺言書保管所)に預ければ紛失、破損、改ざん等のリスクがなく、家族には法務局にあることだけを伝えれば内容を秘密にしておくこともできます。

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櫻井弁護士

この制度は令和2年より開始されたもので、近時認知度も増しています。そこで以下で詳しく紹介していきます。

2 自筆証書遺言保管制度のメリット

 自筆証書遺言保管制度(以下「保管制度」と言います)のメリットとして、保管制度は自筆証書遺言がもつ問題点の多くをカバーすることができます。

遺言書の紛失、破損、漏洩、改ざんのおそれ

原本は死後50年間、データは死後150年間、遺言書保管所で厳重に保管されるためこれらの危険がなくなります。

検認

相続開始後の偽造、変造を防止するため、自筆証書遺言の保管者は検認という手続をとらなくてはなりませんが(民法1004条)、手続には遺言者の出生から死亡までの全戸籍謄本、相続人の現在戸籍謄本の添付が必要となる等、結構な手間がかかります。保管制度ではこの検認が不要となります。

遺言書の所在が不明

遺言者が「死亡時通知」を希望すれば、法務局戸籍担当部局との連携によって死亡が確認された時点で、通知対象とされた者に対して遺言書が保管されている旨の通知を行ってくれます

相続手続が進まない

相続人の一人が保管されている遺言書を閲覧するため遺言書情報証明書(後述)の交付を受けた場合には、他の相続人・受遺者、遺言執行者に対して遺言書が保管されている旨の通知(関係遺言書保管通知)がされます。これにより相続が開始されたことが関係者全員に周知され、次のステップへと進むことができます。

3 自筆証書遺言保管制度のデメリット

 一方、自筆証書遺言保管制度にはデメリットもあります。

遺言内容の確認はしてくれない

預ける際に遺言書保管官から自筆証書遺言の方式(日付や署名押印等)を確認してもらえますが、遺言内容まではチェックされないため、遺言の有効性を保証するものではありません。また相続開始後の事情については関知せず、たとえ有効な遺言書であっても銀行等における手続がスムーズに進まないこともあります。

必ず遺言者自らが遺言書保管所まで出向く

保管制度の申請手続は必ず本人が保管所まで出頭しなくてはなりません。寝たきりだが意識がはっきりしている方については、公正証書遺言であれば公証人が出張して作成することが可能ですが、保管制度の利用は難しいでしょう。

4 自筆証書遺言保管制度を利用するための申請手続

申請書を作成し添付する書類を準備した上で、遺言書保管所に保管申請の予約(必須)を入れることから始めます。

申請書ダウンロードはこちら

記入例はこちら

法務局手続案内予約サービスはこちら
※管轄法務局へ電話又は窓口で直接予約も可

保管制度の利用ができるのは遺言書保管所が設置されている法務局のみであり、土地管轄があります。

参考:遺言書保管所管轄一覧

管轄は以下の地を軸に選ぶことができます。なお2回目以降、追加で保管の申請をする場合は最初に申請した遺言書保管所に限定されます。

遺言者の住所地
遺言者の本籍地
遺言者が所有する不動産の所在地

自筆証書遺言保管制度を利用する際の必要書類は?

 申請手続の当日、以下のものを持参します。

遺言書(無封、ホッチキス止めなしのもの)
申請書
本籍の記載のある住民票(3か月以内のもの)
・本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード等)
・手数料(収入印紙は法務局で購入可)
・訂正印として遺言書に使用した印鑑

自筆証書遺言保管制度の費用は?

申請時に手数料3,900円が必要ですが、年ごとの保管料といったものはかかりません。

5 自筆証書遺言保管制度を利用する際に法務局に相談できる?

どんなタイプの遺言書でも預かってもらえるわけではなく、保管業務の都合上、法務省令に定められた様式を満たさなければなりません。

自筆証書遺言書の様式はこちら

遺言内容の相談には応じてくれない

遺言書の内容については何を書いても(書かなくても)構いません。あくまでも遺言書の保管が目的であり、遺言書保管官は持参した遺言書が民法968条の定める方式に適合するかどうか(全文自書か、押印があるか、加除・変更方法が適切か等)の外形的な確認しか行ってくれません。

 したがって相続割合は妥当か、相続手続が円滑に進むかといった内容については、申請手続前にご自身で検討する必要があります。

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櫻井弁護士

内容が心配な場合は、作成だけを弁護士に依頼するのも良いでしょう。

6 遺言書はどこを探せばいい?

では相続人の立場で遺言書を探す場合はどうでしょうか。

(1)自筆証書遺言保管制度を利用した場合 

 保管制度を利用した場合、手続終了時に保管番号が記載された保管証が交付されます。相続開始後は相続人等がこれを持って表記された遺言書保管所に出向けばよいのですが、保管証が見つからない場合でも次の方法で遺言書の所在や内容を確認することができます。

〇遺言書保管事実証明書

 相続開始後に「遺言保管事実証明書」を請求することで、自分に関係する遺言書の存在と保管されているのであればその保管所を照会することができます。照会請求は誰でも、かつどこの法務局からも可能ですが(要予約)、手数料800円が必要です。

 〇遺言情報証明書

 遺言書の所在が確認できたら「遺言情報証明書」の交付を請求しましょう。同証明書には遺言書の画像情報等が記録されており、これにより遺言内容を知ることができます。こちらの証明書も全国どの法務局からも請求可能であり(要予約)、手数料は1400円となっています。

(2)自筆証書遺言保管制度を利用しない場合

保管制度の利用がない場合は被相続人の身の回りを探すしかありません。持ち物、日記、通帳、名刺等を中心に探します。ここで「面倒だから探さない」という判断は非常に危険です。後日遺言書が出てきた場合は相続手続の再度やり直しを迫られ、場合によっては第三者への損害賠償問題にも発展しかねないからです。

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櫻井弁護士

そして自筆証書遺言が見つかったら、決して開封はせずに家庭裁判所で検認を受けることを忘れないで下さい。

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櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」新宿事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し7年目を迎える。

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