離婚届を勝手に出された、離婚を無効に!でも相手の気持ちは戻るのか⁉離婚届を出されない方法や離婚を無効にする実益について解説

離婚・男女法律問題
櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」千代田事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し11年目を迎える。


離婚時トラブルで多いのが、知らない間に離婚届が出されてしまうケースです。離婚意思のない離婚は無効ですが、離婚を無効にしたとしても夫婦の気持ちはどうでしょうか?

本記事では

離婚意思とは
ケース別(勝手に出された、偽造された、未届出だった)
離婚届を勝手に出すとバレる?犯罪?
離婚届を勝手に出されないために
勝手に離婚届を出されたら~離婚を無効にする実益

について解説します。

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櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 離婚届と離婚意思

離婚届と離婚意思

離婚が成立するためには離婚届を出すだけでなく、夫婦双方に離婚する意思があることが必要です。ここにいう「離婚意思」とは、離婚届を出す意思(形式的意思)で足りるとするのが裁判所の立場(最判昭和38年11月28日)であり、夫婦の実体を解消する意思までは必要とされていません。
そして、役所に離婚届を提出する時点で夫婦双方に離婚意思があることが必要です。

具体例に沿って確認しましょう。

署名していた離婚届を勝手に出された

勢いで署名した離婚届を保管していたところ、自分の知らない間に相手が勝手に出してしまったというケースです。

この場合は離婚届を出すという行為はありますが、無断で出された側の「離婚届を出そう」という意思は、提出時にはありません。したがって役所が受理しても、当該離婚は無効となります。

○報告的届出
例外として、離婚することが確定した以下の場合には、夫婦の合意なく役所に届け出たとしても、離婚の効果が生じます。

段階 離婚することが確定した場合 届出時に必要な添付書類
調停 調停離婚
調停委員を挟んだ話合いで決める離婚
調停調書謄本
審判 審判離婚
離婚合意が大方できている場合に裁判官が職権で離婚やその条件を決めてしまう
*滅多にないケースです。
審判書謄本と確定証明書
裁判 和解離婚
離婚裁判の途中で両者が歩み寄って決める離婚
和解調書謄本
認諾離婚
被告が原告からの離婚請求を全面的に受け入れてする離婚
認諾調書謄本
判決離婚
裁判所が判決によって当事者を離婚させる
判決書謄本と確定証明書

 

※いずれも離婚が成立・確定した日から10日以内(確定日を含む)に離婚届を出さなくてなりません(戸籍法77条1項、63条1項)。

離婚届を偽造して勝手に出された

相手や第三者が勝手に署名や押印して離婚届を出してしまった場合です。自らの意思で離婚届に署名していない以上、やはり形式的な離婚意思がなく、受理されたとしても離婚は無効です。

署名した離婚届を相手に託していたのに届出していなかった

関係を解消し離婚届を出すつもりで署名も済ませ、届出のみ相手に任せていたところ、相手が提出しなかったケースです。離婚は届出行為によって効力が発生する要式行為です。離婚届が未届けでは離婚は成立しておらず、再婚する場合は改めて離婚届を提出しなければ、重婚となるおそれがあります。

2 離婚届を勝手に出すとバレる?犯罪?

離婚届を勝手に出すとバレる?犯罪?

協議離婚の場合、離婚届に二人分の戸籍謄本を添えて届出しさえすれば足り、窓口では離婚届に記入漏れがないかといった形式面しか審査せず、実際に離婚意思があるかまでは調べませ。一旦受理されれば戸籍上は離婚と扱われ、これを撤回するには後述する離婚無効確認の手続きが必要となります。

そこで「相手が気付かなければ離婚は無効とされないのでは?」といった考えが浮かびまず。しかし、相手には通知がいき、場合によっては犯罪となります。

離婚届受理通知

届けを受理した自治体の長は、本人確認ができていない当事者に対して住民票記載の住所宛に受理通知を発送します(戸籍法27条の2第2項)。例えば、妻のみが役所に届出した場合は本人確認の行われなかった夫に、使者として弁護士が届出た場合には夫妻双方に通知がいきます。
したがって所在不明でもない限り、相手も離婚の届出を知り得ることになります。
また戸籍上には「離婚」「除籍」と記載されるため、各種証明のため戸籍謄本を取り寄せた際に気付くことになるでしょう。

犯罪が成立するおそれ

勝手に相手の署名押印して作成した離婚届を役所に提出すれば刑事罰の対象となります。また、相手に届いた離婚届受理通知(ハガキも含む)を隠したり捨てたりする行為も犯罪です。

離婚届を無断で作成する 有印私文書偽造罪
刑159条1項
3か月以上5年以下の懲役 
作成したものを提出する 偽造私文書行使罪
刑161条
同上
戸籍に誤った事実を記録させた 電磁的公正証書原本不実記録罪
刑157条
5年以下の懲役又は50万円以下の罰金
通知を隠匿・破棄する 信書隠匿罪
刑263条 
6か月以下の懲役若しくは禁錮又は10万円以下の罰金若しくは科料

 

3 離婚届を勝手に出されないためには?

離婚届を勝手に出されないためには?

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櫻井弁護士

離婚の覚悟はできているが条件面や感情面から届け出るタイミングも熟考したいと思うのは当然のことでしょう。そこで自分の気付かない間に離婚届を出されることを阻止する方法を紹介します。

離婚届不受理申出

自己の本籍地の長に対して、自分が当事者である離婚届について、自分が出頭しない場合は受理しないように申出ることができます(戸籍法27条の2第3項)。申出の注意点としては以下の事項です。

申出する先の自治体は原則として本籍地(居住地の役所にも提出できるが、本籍地へ送付されるため時間がかかる)
離婚届が出される前に申出する
一度申出すると申出本人が死亡するまで効果が続くため、不受理を解除するには取下書を別途提出しなければならない

不受理申出自体が相手に通知されることはありませんが、申出後に離婚届の届出があった場合は、不受理申出をした者に対して通知が行われます(同条5項)。つまり、不受理申出した本人は相手が離婚届を出したことを通知によって知ることができ、他方、相手は自分が離婚届を出したのに受理されなかったことをもって不受理申出の事実を知ることになります。

内容証明郵便・確定日付公正証書

離婚届不受理申出は相手の勝手な行動を封じるには簡便で確実な方法ではありますが、不向きなケースもあります。
たとえば妻の不貞行為が原因で一旦は離婚話になった夫婦がいるとします。話し合いで離婚はしないことになったものの夫は離婚を望んでおり、それに気付いた妻が不受理申出をしたいが、申出すれば夫から暴力を受けるおそれがある場合、又は、妻の不貞に関する証拠集めに夫が躍起になるおそれがあるといった場合です。

この場合に夫が勝手に離婚届を出してしまったら、妻は離婚無効確認の手続きをとらなくてはなりません。無効確認訴訟では「妻が不受理申出をしなかった=離婚意思の撤回が明らかでない」と判断されかねず、その結果、離婚無効判決を獲得できなくなってしまいます。

そこで、以下の方法によって妻が離婚意思を撤回したこと(離婚意思の不存在)を明確に記録しておくべきです。

離婚意思を撤回した(存在しない)ことを相手に内容証明郵便で送付する
離婚意思を撤回した(存在しない)という内容の確定日付公正証書を作成する

 

4 勝手に離婚届を出されたら~離婚を無効にする実益

勝手に離婚届を出されたら~離婚を無効にする実益

双方に離婚意思のない離婚は理論的には無効ですが、一旦離婚届が受理されてしまえば戸籍上は「離婚」として扱われます。この戸籍を訂正するには裁判所による手続きを経なければなりません。

離婚無効確認の手続き

まずは協議離婚無効確認調停に臨みますが、相手が「離婚は有効」と譲らない場合は離婚無効確認訴訟へと進んでいきます。

○協議離婚無効確認調停
相手の住所地にある家庭裁判所に協議離婚無効確認調停を申立てます。離婚無効確認では「まず調停委員を交えて話合う」という調停前置主義がとられているため、いきなり訴えを起こせないのが原則です。調停委員を挟んで話合った結果、離婚が無効であることに当事者が合意すれば、裁判所が審判するという形で離婚無効を確認します。
審判確定後1か月以内に、役所に審判書謄本と確定証明書を添えて戸籍訂正の申請をします。

○離婚無効確認訴訟
離婚無効の合意ができずに調停が不成立となった場合、なおも離婚無効を主張するのであれば離婚無効確認訴訟を起こす必要があります。
この訴えは自分又は相手の住所地にある家庭裁判所に起こします。通常の民事訴訟と同様、原則として公開法廷で証拠調べを含めた審理が行われます。証拠としては次のものを準備するとよいでしょう。

・離婚届の写し
・自分の筆跡がわかるもの
・自分に離婚意思がなかったことを証明するもの(離婚意思不存在を確認した内容証明郵便、メール、録音通話、日記等)

審理の結果、原告に離婚意思があったとはいえないとの判断に至った場合、裁判所は判決で離婚無効を確認します。確定後1か月以内に当該判決書謄本と確定証明書を持って役所に戸籍訂正を申請します。

結局、離婚へ

離婚無効が確定すれば、婚姻はずっと継続していたことになります。婚姻状態がなおも維持されることは、以下の事項に大きく影響します。

離婚慰謝料の時効 離婚時より3年内かつ離婚原因となった不法行為から20年内で時効消滅(民724条)
親権 婚姻中は共同親権、離婚後は単独親権
婚姻費用 原則として離婚成立まで負担する
財産分与の請求期限 離婚時から2年内に家庭裁判所に調停等を請求(民768条2項)
年金分割 離婚時から2年内に 厚生労働大臣等に分割請求(厚生年金保険法78条の2、同施行規則78条の2)

離婚を白紙撤回して何もかも元通りというのであれば問題ありませんが、離婚を選択した相手の心変わりを期待するのは難しいでしょう。その場合は離婚を協議し直すことが予想されます。しかし、立場によっては離婚のやり直しが不利になる場合や、深い対立のある問題だけを個別に取り上げて話合った方が合理的というケースもあります。

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櫻井弁護士

いずれにせよ離婚無効確認訴訟も含めた慎重な判断が必要になります。まずは当事務所の弁護士までご相談下さい。

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