夫婦といえども元は他人同士。生活習慣や価値観、趣味などでズレが生じるのは致し方ないことです。しかし、そのズレが次第に大きくなって激しい意見の衝突が続き、もはや修復不可能となった場合には離婚という選択が行われます。
しかし、その離婚に至るズレの大きさについて夫婦が意識を共有するとは限りません。夫婦のいずれかが「まだ大丈夫」「絶対に別れない」と考える場合にも性格の不一致を理由に離婚できるのでしょうか?
本記事では相手が難色を示す中、性格の不一致を理由に一方的に離婚できるのか、そしてその場合の証拠の重要性について解説していきます。また慰謝料についても触れ、合わせてどうしても離婚したい場合の方法についても言及します。
学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。
1 性格の不一致で離婚する方法
まず性格の不一致を理由に離婚するための一般的な方法について確認しましょう。離婚には協議離婚、調停離婚、裁判離婚があります。
⑴ 協議離婚や調停離婚を試みる
協議離婚
夫婦間の合意に基づく離婚です。夫婦に性格の不一致がある場合、お互いがストレスを感じているはずです。夫婦の一方が離婚意思を伝えると、他方もこれを受け入れるケースがあります。
夫婦双方が離婚を希望する場合は理由を問われることなく協議離婚できるので、離婚届を役所に提出すれば離婚が成立します。
調停離婚
家庭裁判所において調停委員を交えて離婚について話し合う手続きです。
離婚の合意を目指す場合はもちろん、離婚の合意はしているが財産分与等の離婚条件についてもめている場合にも利用することができます。
【MEMO】 当事者が合意した場合は、調停調書に合意内容を記載して調停成立となります。調停成立の日から10日以内に離婚調停調書の謄本を添えて役所に離婚届を提出することで、離婚が達成されます。 |
⑵ 裁判離婚
夫婦間の話し合いや調停によっても相手が頑なに合意しない場合や条件をめぐって対立する場合には、離婚裁判を提起して離婚判決を得る必要があります。裁判離婚は夫婦間の合意がなくても強制的に離婚させることができる、いわば離婚のための最終手段です。
判決が確定してから10日以内に離婚届を役所に提出することで離婚となります。
2 性格の不一致で離婚できるのか?
お互いが合意すればいかなる理由でも離婚することができるのが日本の法律ですよね。
問題は夫婦のいずれか一方が離婚に応じない場合です。双方の合意なしに離婚するには裁判離婚するしかありません。
そこで「性格の不一致」という理由で裁判離婚できるかについて見ていきましょう。
⑴ 「性格の不一致」という離婚事由はない
裁判所が離婚判決を出すのは、民法770条1項に定められている以下の5つの場合に限定されています(法定離婚事由)。
・不貞行為
・悪意の遺棄
・配偶者の生死が3年以上不明
・配偶者が強度の精神病で回復の見込みがないとき
・その他、婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
ご覧のように「性格の不一致」は法定離婚事由ではありませんが、性格の不一致が原因で民法770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」があると判断された場合には離婚判決を得ることができます。
⑵ 裁判所がとる破綻主義
裁判で問題になる「婚姻を継続し難い重大な事由」について、裁判所は「夫婦関係が破綻しており、夫婦関係がこれ以上継続できないと判断できること」を基準としています。これを「破綻主義」といいます。
ポイントは破綻しているという事実だけでなく、「もし同じ立場に置かれたら誰でも婚姻継続の意思を失うであろう」という程度の評価が行われる点です。仮に夫婦関係の破綻だけで足りるとすると、夫婦のいずれか一方が相手の顔を見るのも嫌なほど婚姻継続の意思を失ってしまえば婚姻は破綻したものと言わざるを得ず、直ちに離婚が認められることになります。
しかし、裁判所はこのような立場をとらず、破綻の事実認定だけではなく「継続できない」という法的評価も行うという建前をとっているのです。
3 性格の不一致で離婚する場合の証拠の重要性
⑴ 破綻を示す証拠
離婚裁判では証拠に基づいて事実が認定されていきます。
そこで離婚判決を得るには、夫婦関係が破綻していることを裏付ける証拠をできるだけ多く集める必要があります。
・喧嘩をしている様子が収録された動画や音声データ
・夫婦関係が破綻していることを表す手紙やメール、日記
・別居中であればそれを証明する賃貸契約書、住民票等
・夫婦をよく知る人物の証言
・それ自体は法定離婚事由にあたらないが夫婦関係の継続困難を伺わせる事情(暴行、侮辱、浪費癖、性生活の不一致、他方配偶者の親族との不和等)に関する証拠
⑵ 夫婦双方が納得するためにも証拠が重要
裁判所のとる「破綻主義」は破綻の事実認定のみならず「継続できない」という法的評価も伴うことは上記に触れました。
法的評価が加わるということは裁判官の主観に左右される可能性があるということです。
すなわち、いずれか一方が離婚に難色を示している場合には裁判官は離婚を認めないケースが少なくありません。その結果、離婚を認めてくれる裁判官に出会うまで調停や裁判を繰り返す、あるいは裁判のむなしさを知って法と現実の乖離のまま人生を終えるという事態が生じかねないのです。
そのような事態を避けるためにも十分な証拠を揃えた上で、家庭生活において夫・妻の信頼がどのように崩壊したのかを客観的に示す必要がありますね。
種々の証拠を前に夫婦相互が胸を開いて真剣に話し合い、納得せざるを得ないという状態を作り出し裁判官に示すことが極めて重要であるといえるでしょう。
4 性格の不一致による離婚における慰謝料
離婚慰謝料は、婚姻関係を破綻させた有責者が精神的苦痛を被った相手に対して支払うものです。性格の不一致ではどちらかに責任があるわけではないため、慰謝料請求権は基本的には発生しません。
ただし、相手の暴力がきっかけですれ違うようになった、夫婦仲が冷めていることを理由に夫(妻)が不貞行為をしたなど、性格の不一致以外にも他の離婚原因が絡む場合があります。その場合は他の離婚原因を根拠に慰謝料請求することができます。
【MEMO】 ちなみに、慰謝料金額の相場は不貞行為であれば100~300万円、DVであれば程度によって50万円~300万円となっています。なお、夫婦間の不仲は慰謝料減額事由となる点に注意が必要です。 |
https://as-birds.com/media/divorce-6/
5 性格の不一致を理由にどうしても離婚したい場合
「話し合っても相手が頑なに離婚に応じない」「裁判を起こしても勝つ自信がない」、それでも離婚したい場合の方法についても解説しましょう。
(1) 別居に踏み切る
別居期間が長期に及ぶと、離婚裁判ではそれだけで「夫婦関係の破綻」が認められやすくなります。
しかも自分が相手よりも収入が少ない場合には、別居期間中も相手に婚姻費用を請求することができます。
相手は別居の現実とともにむなしい経済的負担に直面することになるわけですね。
しかし、逆に相手よりもあなたが高収入である場合は延々と婚姻費用を支払わなければならないおそれがあります。また、あなた自身に不貞行為などの有責性がある場合は、長期間の別居だけでは裁判で離婚を認めてもらうことは難しいかもしれません。
どの程度の期間の別居が必要かは夫婦によって異なります。別居中の注意点も含めて一度弁護士に相談するとよいでしょう。
⑵ 弁護士を入れながら交渉し解決金を支払う
離婚の意思が固まった時点で早めに弁護士に相談することをお勧めします。
まずは相手を、そして裁判官を納得させるための証拠集めについて詳しく指南します。そして弁護士が付いたというだけで離婚に対する本気度を相手に示すことができ、無用な言い争いを避けることができるでしょう。
また、慰謝料や婚姻費用さらに和解金といった経済的な問題についても、裁判実務に即して妥当な金額を呈示した「解決金」を支払うことで、別居という方法をとらない早期の解決を目指します。
そして何よりあなた自身の婚姻生活や離婚に対する考え、悩みといったものを弁護士が真摯に受けとめます。「本当に離婚するのか」「他に方法はないか」「その後の生活は」といった根本的な問題にも総合的に対処していきます。
6 まとめ
離婚理由の第1位は夫・妻ともに性格の不一致です。相手が合意してもしなくても、離婚には多くの難関があります。対応に困った場合や一日も早く離婚したいとお考えの場合には、弁護士法人アズバーズまでお気軽にお問い合わせください。