暗号資産、マイル(ポイント)等のデジタル遺産の遺産分割と調査【相続問題を弁護士が解説】

相続法律問題

相続が開始すると遺言がなければ遺産をどのように分けるかについて相続人全員で話し合う必要がありますが、昨今大きな問題となっているのが暗号資産やマイル(ポイント)等のデジタル遺産の扱いです。

本記事では、まず

遺産分割の対象となるデジタル遺産の範囲

について述べます。次いで、

デジタル遺産の調査時期
デジタル遺産の調査方法

についても解説していきます。

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櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 デジタル遺産と遺産分割

民法896条では一身専属的な権利を除いて「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」としています。したがってネット銀行の預金・借金、オンライン取引の株式、交通系電子マネーのチャージ残高なども相続の対象となります。遺産分割時にはこれらについても忘れずに話し合いましょう。

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櫻井弁護士

ここでは相続対象であるかどうか悩んでしまうものについて紹介します。

マイル・ポイント

契約や規約の確認、相手企業に問い合わせるなどして相続ができるかどうか判断します。相続が可能であれば遺産分割の対象となり、誰が取得するかを話し合います。

暗号資産

暗号資産とは、財産的価値を有し銀行などの第三者を介さずにインターネット上で取引できる「データ資産」のことです。代金支払等に利用でき、法定通貨との相互互換も可能ですが、国や中央銀行が発行する法定通貨とは異なり、価値を裏付ける資産がないためその価格変動率が大きいのが特徴です。実際利用者の多くが現物取引やレバレッジ取引といった投資目的で保有しています。

暗号資産については所有権を否定した判例(東京地判H27.8.5)があります。また現物がない暗号資産は、その取引記録を分散管理することで偽造・改ざんを防ぐ「ブロックチェーン技術」の下に市場が成り立っているため特定の相手を想定することができず、債権ともいえません。もっとも相続税の課税対象であるとの見解が国税庁から示されており、相続の対象となることに実務上争いありません。遺産分割協議に入る前にその存在や取引所を調査しておきましょう

デジタルデータ

デジタル機器内に保存された写真画像や原稿、楽曲などのデータはそれ自体が無体物であり所有権の対象にはなりませんが、著作権等の知的財産権が成立する可能性があります

また、著作権等の権利が成立しない場合でも、財産法上の法的地位、つまり「お金になるもの」であれば相続の対象となります(896条本文)。長年集積してきたデータや応用美術(実用品のデザイン)などがこれにあたります。

一方、故人の思い出の写真や日記といった財産価値を持たないものについては保存されているデジタル機器の相続に付随して相続を考えればよいでしょう。

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櫻井弁護士

以上の区別を前提に、遺産分割協議では分割方法を決定することになります。

2 デジタル遺産の調査時期

デジタル資産も相続の対象となり得る以上、できるだけ早い時期に調査を行うべきです。

相続税の申告には被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内という期限があり、IDやパスワードがわからずデジタル資産にアクセスできないからといって猶予はされません。また、放置すれば相続人が増え続けて遺産分割協議がまとまりにくくなるのはデジタル遺産でも同じです。そして、株式取引や外国為替証拠金取引(FX取引)、暗号資産には価格変動のリスク、ネット上の債務(借金やアフィリエイトアカウント等)は放置すれば債務不履行責任が発生し、しかも相続人からは探知しにくいといったデジタル遺産特有の問題もあります。

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櫻井弁護士

したがって相続開始後は直ちに調査し、可能であれば生前の本人から直接聞き取って確認をとっておくのが理想です。

3 デジタル遺産の調査

何が遺産分割の対象となるのかが確認できたら、次はその調査に取りかかります。被相続人が作成したデジタル遺産とそのアクセス方法のリストがあればそれに従って手続きを進めればよいでしょう。

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櫻井弁護士

ここではデジタル遺産に関する情報を相続関係者間で共有していなかった場合について説明します。

(1)調査の端緒

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事務員

不動産や紙の通帳に印字された貯金とは異なり、相続人からは見えづらくアクセスも難しいデジタル遺産ですが、まず何を手がかりに探し始めればよいのでしょうか。

〇遺言書

 遺言書にデジタル遺産について記載されている可能性があります。公正証書遺言であれば公証役場に、自筆証書遺言書であれば家の中を探すか、遺言書保管制度を利用している可能性もあるので、法務局(遺言書保管所)に問い合わせることから始めます。

自筆証書遺言の場合、本人が保管時に「死亡時通知」の申出を行っておれば、本人死亡時に指名された関係者宛に遺言書が保管されている旨の通知が送られてきます。ただし本人が通知の申出をしないこともあり、また通知されるのは指名された者だけであるため、相続開始後はまず法務局に遺言が保管されているかどうかを確認しましょう

〇銀行口座

 暗号資産やFX取引では取引開始時には取引用口座への入金が必要となるため銀行口座からの送金が行われるのが通常です。そのようなお金の動きがないかを記帳やネットバンクの履歴を通じて確認します。

〇クレジットカード明細

 アフィリエイト取引、定額課金方式のサービス等ではカード決済されていることが少なくありません。場合によっては携帯電話料金と一括して請求されていることもあるので、携帯電話料金の確認も併せて行います

〇確定申告関係書類

 暗号資産やFX取引による収益も課税対象です。これまでの確定申告書、とくに『雑』所得を確認します。デジタル資産取引や副業によるネットショップ収入も雑所得に含まれるため手がかりになるはずです。

〇持ち物

 オーソドックスですが、被相続人の持ち物を調べるという作業は外せません。とくにボールペンやTシャツ等の各暗号資産取引所等が交付しているノベルティグッズは重要な手掛かりになります。

(2)調査の箇所

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事務員

 「故人はデジタル資産を持っていたようだ」との認識に達したら、より具体的な内容を確認するにはどこを調査すればよいのでしょうか。

〇アプリケーション・ソフトウエア

 被相続人が使用していたスマホやパソコンなどに各サービス専用アプリやソフトがインストールされておれば、そのサービスの利用履歴が比較的容易に判明します。

〇ブラウザ内の情報

 アプリ等のアイコン表示がないものについてはブラウザ内を探します。ブックマーク、閲覧履歴、メール、これらを辿っていけば各種取引やコンテンツサービスの利用が発見できるでしょう。とくにメールにはアフィリエイト報酬の振込通知や暗号資産取引所が提供するウェブウォレットの登録ID通知等が含まれています。面倒でもしっかり調査したいところです。

4 調査方法

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櫻井弁護士

次にデジタル遺産の調査方法について注意すべき点をいくつか挙げます。

①自分で行う方法

 まず、裁判所の手続きを経ずに調査する方法です。

・相続人が複数いる場合

 遺産分割協議が成立するまでは、デジタル機器を含め内部のデータ類は全相続人の共有状態にあります。ロック解除やデータ復元が保存・管理・変更のどれにあたるかによって必要になる相続人の同意数が異なりますが、物理的な変更を加えるものではないことから、管理(持分の過半数の同意、民法252条本文)あるいは保存(各自が単独でできる、同条但書)にあたると思われます。

とはいえ、初期化してしまうリスクや「やった、やらない」の後日トラブルを避けるためにも、相続人全員の合意の上でロック解除等を行うのが好ましいでしょう。

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櫻井弁護士

なお、一部のデジタル機器にはローカルワイプ機能が標準装備されており、ロック解除の試みがデータ消去という深刻な事態を招くおそれがあります。対策としては各デジタル機器内の記憶媒体を直接調査することでパスワードロックを迂回して内部のデータ類を確認することができる場合もあります。このような方法についても積極的に話し合うことをお勧めします。

・単独相続の場合

単独相続では処分すること自体に注意が必要です。「処分行為あり」となると相続放棄や限定承認ができなくなります(民法921条)。処分行為には売却や解約といった法律行為以外にも、破棄といった事実行為も含まれます。くれぐれも「中身を確認できないなら不要だ」と軽く考えて捨ててしまわないように注意しましょう。

②裁判上の手続きを利用する方法

 以上に対して、欲しい情報が自分の手元になく利害の対立がある他者の元にある場合です。たとえば被相続人が自死したが勤務先のパワハラが原因と考えられ、その関連事情を示すメールのやりとりを確認したいといった場合には、まずは勤務先に対して任意の開示請求を行います。

通常は「営業上の秘密事項」として任意の開示をうけることは難しいでしょう。そこで民事訴訟提起を前提とした証拠保全手続、提訴後は文書送付嘱託の申立(民訴法226条)、文書提出命令の申立(221条)の利用が検討されます。また、データ改ざんや消去等が疑われる場合には裁判所に鑑定の申出を行い、データ復元を含むフォレンジック調査を促すこともあります。

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櫻井弁護士

いずれも高度な法的テクニックを必要とする手法ですが、「あるかどうかも不明」「証拠は相手の手中にある」といった理由でデジタルデータや証拠集めを諦める必要はありません。まずは弁護士にご相談下さい。

5 まとめ

 遺産分割協議はもめごとが生じやすい上にデジタル遺産も含まれるとなると、法的な問題に技術的な限界も加わって事態がより錯綜してしまいます

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櫻井弁護士

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櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」新宿事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し7年目を迎える。

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