大学には通信制の大学があります。また、各大学には「通信教育部」が存在することも多いです。

我が母校中央大学にも通信教育部があります。法学の通信教育のみです。最近、松田聖子さんが卒業したということで大きく話題になりました。
実際には、入学試験がないことが多く、書面審査のみでそのまま入学して、課程をクリアーすれば「大卒」を名乗ることができます。
では、大学側が入学を拒否することは許されるのでしょうか?

その問題を中心に、入学に関する法律問題として、


・通信制大学の入学拒否は許されるのか
・学納金返還訴訟の問題


等についてお話します。

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櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 通信教育学部の入学拒否は許されるのか?

通信教育学部の入学拒否は許されるのか?

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事務員

例えば、直近で傷害事件を行いこれから裁判を控えている者がニュースに出ていたので、その者の入学を認めないことで、問題が発生するのでしょうか。

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櫻井弁護士

これについては、もし、募集要項に、
「犯罪を行ったものなどは入学させない」
というような旨が具体的に記載されているようであれば、入学拒否も問題はないように考えられます。
それが、「在学契約」という契約の条件として、契約内容になっていると考えられるからです。

問題となるのは、原則、申込があった者は入学させるような内容になっている場合です。この場合には、他の申込者との間の「平等原則」の要求と、国民の「教育を受ける権利」(憲法14条及び23条。私大の場合にはこの憲法の私人間効力)が問題となってきます。

この点、某問題を起こした宗教の教祖だった者の子の入学を拒否した裁判例(東京地裁平成18年2月20日裁判例)があります。
試験に受かった者の入学を拒否することは、他の学生達に明らかに悪影響を及ぼすような入学不許可にしなければ真にやむを得ない場合でない限り認められず、損害賠償義務が発生する(学校に対する賠償金30万円が認められた)という結論になりました。

そこで、本件事例のような事案においても、原則として試験がない以上、入学を認めない真にやむをえない事情があるかどうか、調査をするべきです。

この点、通信教育なので、傷害を行った者が他の学生と顔を合わせる機会は少なく、問題が発生するような事情は少ないとなりやすいように思われます。
もっとも、その者が前にも大学に所属しており、その学校で他の学生に対し傷害を行ったような場合は、入学させない方が良いという事情になりえます。
また、その者が在学中犯罪をまた行った際に、「なぜそのような者を入学させたのか。」
というような声が上がり、大学の名声に傷がつくことを懸念するということも一応の事情となるでしょう。

実際、大学卒業の学歴がない者で、あまりよろしくない事情のある者が、大学卒業の学歴を得るために通信教育部を利用することは多いようです。
ですが、通信教育部は、入るのに条件はないものの、卒業は大変と聞いています。少なくとも中央大学通信教育部では、入学者の1割以下しか卒業できないとのことです。
実際の講義が難しいこともあり、また、「学友」に会う機会が少なくモチベーションが上がりにくいことも影響していると思われます。

ただ、いずれにしろ、今後、更に増えてきそうな同事情に対応するため、各大学の通信教育学部は無条件入学を見直す時期にきているかもしれません。

 

2 学納金返還訴訟の問題

学納金返還訴訟の問題大学受験で合格したが、本命の大学でなかった場合、入学金や授業料等の学納金を払って、入学手続をし、滑り止めとして確保するということが行われていました。
この際、以前は、入学金のみならず、授業料も徴収されていました。通信教育制大学において、入学が拒否される場合には入学金や授業料はどうなるのかと関係してくるので、以前のその扱いについて、以下解説します。

これは消費者契約法や公序良俗に反するのではないかとして、各大学で一斉にそれについての訴訟が提起され、平成18年に多数最高裁判例が出ました。
これが一連の「学納金返還請求訴訟」です。

対日本大学の最高裁平成18年11月27日判例は、憲法26条(教育権)の精神から、学生の方からはいつでも在学契約を将来に向かって解除して退学ができるが、大学はできないものとしました。
その上で、下記のように判示しています。


在学契約は、解除により将来に向かってその効力を失うから、少なくとも学生が大学に入学する日(通常は入学年度の4月1日)よりも前に在学契約が解除される場合には、学生は当該大学の学生としての身分を取得することも、当該大学から教育役務の提供等を受ける機会もないのであるから、特約のない限り、在学契約に基づく給付の対価としての授業料等を大学が取得する根拠を欠くことになり、大学は学生にこれを返還する義務を負うものというべきであるし、同日よりも後に在学契約が解除された場合であっても、前納された授業料等に対応する学期又は学年の中途で在学契約が解除されたものであるときは、いまだ大学が在学契約に基づく給付を提供していない部分に対応する授業料等については、大学が当然にこれを取得し得るものではないというべきである。

4月1日には、学生が特定の大学に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測されるものというべきである。


として、入学日である「4月1日」より前に学生の側から解除がされた場合は、授業料を徴収することはできないものであると述べました。
一方、入学金は、その大学に入るかどうかを留保することができるものであるから、実際の授業料とは違う性質であるものとして、入学金の無条件没収については公序良俗に反しないとしました。

余談となりますが、同日平成18年11月27日に最高裁が判示した同志社大学に対する判例では、


なお、要項等に、「入学式を無断欠席した場合には入学を辞退したものとみなす」、あるいは「入学式を無断欠席した場合には入学を取り消す」というような記載がある場合には、学生が入学式を無断で欠席することは、特段の事情のない限り、黙示の在学契約解除の意思表示をしたものと解するのが相当である。


として、入学式を無断で欠席することは学生側からの黙示の解除の意思表示があったとみなす記載があった場合は、有効であるとしました。

3 まとめ

大学に入学すると、「在学契約」という特殊な契約関係に入ります。
その法律関係の第一段階がこの入学に関する問題です。

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櫻井弁護士

大学入学に関連して法律問題が発生しそうなときは、ぜひ私達の事務所にご相談いただければと思います。

【2024.2.5記事内容更新】

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