通常、みなさんは、例えば売却した物の代金を支払ってくれない相手方には、まずは電話やメールで支払うように要求するでしょう。
しかし、「今月中には払うから」と言うのに支払わないということをのらりくらり繰り返されたときは、弁護士に依頼すると思います。この際、通常は「内容証明郵便」という相手方に届いたことを証する郵便で、「何日以内に支払ってください。」という内容が送られることになります。
それでも支払いがない場合は、訴訟いわゆる「裁判」を提起することになると思います。

訴状を裁判所に提出して訴訟を提起すると、裁判所から訴状が相手方に送られるのですが、このような相手方の場合、訴状すらも完全に無視される場合もあるかもしれません。

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事務員

こんなことをされたら、怒り狂ってしまいそうですね。


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櫻井弁護士

このような場合はどうすれば良いのでしょうか?

・訴状が相手方に届いたにも関わらず無視された場合は?
・訴状の受取を拒否された場合には?
・支払おうとしない相手方に対し更に有効な方法 仮差押

について、解説します。

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櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 訴状が被告に届いたにも関わらず無視された場合は?

訴状が被告に届いたにも関わらず無視された場合は?

裁判所の民事部に、裁判開始のための訴状を提出した場合、裁判所から、相手方に対して、訴状と証拠(「甲〇〇」と記載されているもの)等資料一式が届きます。
この郵便は、確実に相手方に届いたことを証明するため「特別送達」という形式で行われます。直接相手方本人が受け取ったという証明をする形式です。

この訴状等の書類一式の中には、「第1回期日が〇〇年〇〇月〇〇日」であるということが記載された書面も入っています。
しかし、払うべき金額を支払わないようなだらしない相手方であると、そのような裁判所からの書面でも目をそむけて見ようともせず、無視して寝かしてしまうという場合も考えられるでしょう。現に、そのようなケースを何度も見てきました。

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事務員

この場合、どのような扱いになるのでしょうか?

第1回裁判日が設定されているが、その日に被告が用事があって出頭できない場合には、「答弁書」という書面を裁判所にあらかじめ提出しておけば、参加しなくても答弁書の内容を表明したことになり、裁判所において第2回期日が設けられます。これを「擬制陳述」(民事訴訟法159条)といいます。
答弁書は、書き方も訴状と共に入っている資料に記載されており、弁護士がいなくてもとりあえず作成できるようなものになっています。

これに対し、第1回裁判日が設定されているにも関わらず、被告が第1回期日に出頭しない場合は、被告は訴状に書かれている事実関係を認めたことになってしまいます。
そして、そのまま、訴状の内容そのままで裁判は終了し、判決日を指定され、訴状を提出した原告の請求は基本的に認められることになります。これを「欠席判決」といいます。

ただし、原告の請求があまりにも荒唐無稽な訴状の内容であるような場合、例えば、「『バカ』と言われたから1憶円支払え」というような内容であったとしたら、裁判所としてもこれをそのまま認めるのはさすがに問題であるということになってしまうでしょう。相手方が欠席しそうな場合、無理筋の訴訟を吹っ掛けるということが多発してしまうからです。
そこで、損害金額の評価等についてはある程度妥当な評価を裁判所が自ら考えてすることになり、ある程度の金額で落ち着くことになるのが多いです。

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櫻井弁護士

裁判官は、法律上、評価額の算定等、ある程度自由に評価することができるからです(民事訴訟法248条。自由心証主義。)。


例えば、私が担当した件で、インターネット上のある中小企業に対する誹謗中傷について、330万円を請求したのですが、欠席判決で110万円がみとめられたことがありました。

また、事実関係にしても、例えば、その裏付証拠等も特になく「親が通りがかりにいきなり刺殺された。」というようなドラスティックな訴状の内容であったとすれば、裁判所は後日の問題発生を防ぐために、原告のみに事実関係を聴く尋問期日を設けることもあります。

ですが、基本的には、裁判所も、被告が出頭すらしてこないような場合は、その態度を重視し、速やかな欠席判決の方向にもっていくことが多いです。

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事務員

そうだとすると、訴訟を提起された側は、無視すれば良いというものではなく、むしろ訴状の無視はもっとも危険であることを認識する必要がありますね。

これに対し、訴訟を提起した原告としては、欠席判決を得たからといって、自然と相手方が支払ってくれるわけでもなく、もちろん裁判所が立て替えて支払ってくれるわけでもありません。
自分で相手方の財産を、裁判所を通した強制執行手続により差押えする必要があります(例えば、預金や不動産、相手方の勤務している会社に対する給与債権も差押えられます。)。

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櫻井弁護士

相手方の財産も、どこにあるのか自分で調べる必要があります。預金の場合は、どこの金融機関のどこの支店の口座かを知る必要がありますし、給与債権であれば、勤務先を把握する必要があります。

これに関しては、以前はかなり探すのが難しく泣き寝入りすることが多かったのですが、下記の記事のように、民事執行法の改正により、財産開示手続の実用性が向上しています。
これまでは、相手方の財産がわからない場合に裁判所に申立てを行う財産開示手続は、相手方が出頭しないと泣き寝入りとなることが多かったのですが、改正により、出てこない相手方に犯罪が課せられるようになったので、相手方に心理的に出頭を強制させることになりました。
また、財産開示でも財産が見つからない場合に、裁判所が主導となって、相手方の不動産財産について法務局に問い合わせたり、相手方の就業先を調査してくれる手続ができました。
下記の記事で詳しく説明しております。

2 被告が訴状の受取を拒否した場合には?

被告が訴状の受取を拒否した場合には?

裁判所から訴状が特別送達によって送られた場合に、そもそも被告は受取を拒否することもできます。このときは、訴状は裁判所のもとに戻ってきてしまいます。
また、送達されたときに被告自身が住居にいない場合は、受取通知がポストに入れられますが、これも期限内に受け取られない場合、結局、裁判所のもとに訴状が戻ってきてしまいます

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事務員

この場合はどうなるでしょうか?

このような場合、裁判所は、訴状を就業先に送ることを検討するので、原告に対し、相手の就業先を知っているかどうか聞いてきます。相手の就業先がわかる場合には、「就業先送達の上申書」というものを裁判所に提出して、就業先に送ってもらう手続を行います。

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櫻井弁護士

普通の固い会社のサラリーマンや公務員だったら、びっくりするでしょうね。

就業先がわからない場合は、裁判所から、「訴状が届かなかったので、被告住所の調査をお願いします。」と言ってきます。

まずは、訴状に書いてある住所について、住民票をとって、被告の住所を調べます。
この際に、違う住所に移っているようであれば、そちらに再度送達がされます。
住所が変わっていないようであれば、文字通り、被告住所の調査が始まります。

被告住所の現地へ行って、被告が居住していそうか、居住していなそうかを調査するのです。
例えば、メーターが動いているかどうか、玄関に傘があるかどうか、洗濯物がかかっているかどうか、明かりが点いているかどうか等で、居住しているかどうかの報告書を書く必要があります。

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事務員

探偵のようですね。

遠いところをわざわざ行く場合もあるので、調査が不完全で、もう一度裁判所からの要請がある場合は、大変ですし、交通費もかかってしまいます。
勇気があって、確実に調べたいときは、隣人を訪ねて、その被告がいるかどうか聴取する方法もありますし、いっそ本人の呼び鈴を直接ならしてみるのも良いでしょう。
何者か尋ねられたときは、「裁判所の命で調査に来た者です。」と言っておけば良いのです。嘘ではないですから。

なお、最近では、この住所調査を専門とする業者なんかもあります。遠くの県の人に訴訟をする際は使ってもよいかもしれません

このような調査を行って、結果として、被告が居住していると思われる場合には、裁判所がその住所に向けて①付郵便送達という手続をおこないます。
相手方が受け取らなくても送達がされたものとして手続を進めるものです。
1に戻って、期日が強引に決まります。被告は裁判の存在を知らないので、そのまま欠席判決となり、原告は勝訴できます。

居住していないと思われる場合には、②公示送達という手続になります。
裁判所の前にその被告への呼出状が掲示されます。
そして、①の場合と同様にそのまま訴訟の手続が進むことになります。

①②のいずれにしろ、受け取らなかった被告は、訴訟の存在を知ることなく判決の方向に進んでしまうということです。

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櫻井弁護士

このことから、逃げ得は許されないということです。

3 支払おうとしない相手方に対し更に有効な方法 仮差押

支払おうとしない相手方に対し更に有効な方法

1、2の手続はかなり時間がかかります。判決までに2~3カ月ぐらいの時間はかかるとみておいた方が良いと思います。
もし、代金等を支払わない相手が企業の場合、逃げ回っているのは、財産的に追い詰められている状態であることが明らかであることから、この間に財産は更にどんどんなくなっていくこともあるでしょう。

このような事態を避けるためには、もし相手方の預金や不動産等の財産の存在があらかじめわかっている場合には、民事保全法上の仮差押という手続が有効です。

訴訟をするより先に、迅速に相手方の財産を仮に差し押さえてしまう手続です。
証拠上、明らかに相手方に対する債権が存在するという場合に、その証拠(厳密には「疎明資料」といいます。)を添えて、訴状と同様の仮差押の申立書を裁判所に提出します。
裁判所が、相手方に対する債権がありそうと認めた場合は、裁判所が、相手方にもし損害が生じることになった際に担保となる保証金を納付することを申立人に命じて、その後、財産を差押えます。
保証金は、請求額の20~30%ぐらいが多いです。
仮差押が成功すると、預金の場合は、口座が凍結され、相手方は引き出し等ができなくなります。この場合、もちろんそのような事態になると、金融機関の信用がなくなり、最悪ブラックリストに載ってしまうので、まだ運営されている会社相手には非常に有効です。
また、不動産の場合は、不動産登記簿上に「仮差押」がされていることが記載されます。このような場合は、もちろん真っ当な不動産ではないとして売れなくなります。
【参考記事】不動産の仮差押で債権回収

そのような状態となった後、裁判をし、勝訴した場合には、その仮に差押えた財産から未払分を支払ってもらうことができるのです。

先日、請負代金未払いの会社の預金に対し、仮差押をすぐにしました。
その会社からすぐに電話があって、「700万円全額しはらったからすぐに仮差押を解除してほしい」という連絡がありました。

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櫻井弁護士

痛快な瞬間ですね!

まとめ

意外と、裁判所という普通の人なら恐れる機関からの訴状が届いても、しれっと無視をするような面の皮が厚い人は多いです。
しかし、無視は有効な手段ではありません。
もし自分が請求する側で、無視された場合は、この記事にあるように、粛々と進めると良いでしょう。

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櫻井弁護士

その手続の中で、弁護士が必要な場合には、私達の事務所に連絡をいただければご対応させていただきます。

(2023.9.4記事内容更新)

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