2020年4月から、大きく改正された新民法が施行されました。

この中で保証(みなさんご存知のように、ある者の債務の履行を担保(保証)することを目的として、債権者とその者以外の保証人との間で締結する契約です。)に関する改正は日常生活にも影響があり、重要です。
より具体的に言うと、包括根保証(包括的に限定なく幅広い債務を保証すること)に関して極度額(上限)を設けなくてはならなくなりました(新民法465条の2)。

これにより、大学に入学する際の、父母等の「保証人」の責任が変わってきます。
私が法務を担当している学校法人中央大学でも、私の進言もあり、保証人に関するフォームが変わりました。
中央大学に関する記事

以下,具体的に説明します。

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中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 包括根保証等保証人に関する民法改正の内容

包括根保証等保証人に関する民法改正の内容前述の包括根保証とは、例えば典型的には、賃貸借契約における保証人です。
賃貸借契約における保証人は、特定の1ヶ月分の賃料ではなく、賃貸借契約が続いているときについてずっと保証人が賃料分を変わりに支払う責任を負うのです。
しかも、賃料だけでなく、例えば建物を壊した責任等、様々な種類の責任を負います。

そこで,広い責任の包括的根保証契約の典型といえます。

このような包括根保証について、極度額、すなわち、
「最大で~円まで負担する。」
という内容を盛り込むことが契約上必要となりました。

その定めがなければ、保証契約が無効になります。包括的根保証契約は保証人がどこまでも責任を負うことになる恐れがあるので、保証人の責任が過大に及ぶのを防ぐため、このような改正がされました。

これにより、賃貸借契約の保証人は、責任の範囲等を伝えなくてはならず、その責任を負うのを恐れて保証人になってくれる人が少なくなってしまう恐れがあります。
これは、賃貸人としても、貸す相手を探すのが難しくなってしまうことになりかねません。
そこで、賃貸借契約においては、これまでは親族等の「連帯保証人」が必須であることが多かったのですが、民法の改正以後は、家賃保証会社の費用を負担してもらって、対応することがスタンダードになっています。
【参考記事】民法改正により賃貸保証等はどうなるか

2 大学における学生の保証人の責任

大学における学生の保証人の責任このことにより、同じく大学生活全般における責任の包括根保証といえる、大学の入学時における学生の保証人の責任についても極度額を設ける必要があります。

これまでは、だいたいどこの大学でも、
「在学中の学生が行ったことに関する一切の責任を負う。」というように包括的な記載になっており、これに保証人が署名・押印をすることによって、学費未払いの責任のみならず、大学の備品を壊した等、大学に損害を加えたときの賠償も負うことになっていたからです(なお、実際には、学費については、未払があると、自然と除籍になり、請求の必要がないのが通常です。また、損害賠償の請求については、中学・高校では実行されることが多いものの、大学ではあまり実行されていないようです。)。

このような記載は、単なる誓約書のようなものであると思っている方も多いかもしれないですが、一応契約が成立しているといえます。

なお、余談ですが、保証人が見つからないからといって、学生が自分で書いてしまうなどするのはもちろん問題になるので気をつけてください。大学の在学契約が、民事上取消になってしまう恐れがあります。それどころか、私文書偽造罪にまでなりかねません。

さて、保証人の極度額を意識したフォームの改訂例としては、大きく2つが考えられますね。

①例えば「400万円まで」というように具体的な金額を記載する。
②「通常の在学年数の学費相当分まで」というように,抽象的に学費相当分と記載する。

②の記載の仕方で大丈夫かどうかは、今後の裁判例等の判断に委ねられることになると思います。
ただ、①のような書き方は、保護者がサインして入学させることを躊躇してしまう恐れがあるので、②ぐらいの穏当な書き方が良さそうですね。
私の大学でも②が採用されました。

なお、これまでの記載では、「連帯して」という記載がない大学が多いと思います。
「連帯して」保証する旨の記載がないと、「連帯保証」ではなく「単純保証」となり、大学側としては、保証人に対する請求がしにくくなるので、この点も注意が必要です。

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櫻井弁護士

他の大学も②のような様式への変更が多いようですが、まだ様子を見て、改訂していない大学もちらほらあるようです。


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事務員

ではいつまでに変更するべきなのでしょうか?気になるところです。

3 いつまでに保証人に関するフォームを変更するべきか

いつまでに保証人に関するフォームを変更するべきかこの改正が適用されるのは、保証契約が締結された時が民法の改正後、すなわち2020年4月以降の場合ということになります。

そうだとすると、保証契約に関する書面の作成(大学の場合は、入学時か入学前に作成する「誓約書」等である場合が多いと思います。)が2020年3月より前に行われた場合は、これまでの契約内容のままで問題ありません。
2021年度入学生からは、確実に上限の極度額について記載する必要があります。

4 まとめ

以上のように、民法改正によって、大学は、入学時の保証のフォームを変える必要があります。

2019年、一般社団法人大学監査協会と学校法人中央大学内において、民法改正の内容と、それが大学法務に与える影響についての講演をしました。
それによって、この包括根保証についての改正の重要さをお伝えすることができました。
中央大学内で民法改正について講演

なお、この包括根保証については、大学でいうと他にも問題が生じそうです。というのは、大学と企業や公共団体の間のインターンの協定書等についてです。
これまで、このような協定書については、「インターンの学生がそのインターン先の団体や第三者に損害を加えた場合は、大学も責任を負う。」となっていることが多かったです。
すなわち、この内容だと、大学が、学生の包括的な保証人になっていると読みとることができそうなので、これは包括根保証契約である可能性があります。そうだとすると、大学が責任を負う範囲の上限を記載する必要がありそうで、その記載がなければ、無効な内容と解釈することもできそうです。
この問題については、まだ裁判例や前例がこれと言ってなさそうなので、今後の裁判例の集積を待ちたいと思います。

本記事が、各学校において今後の対策を考える一助になれば幸いです。

【2024.2.12記事内容更新】

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