表題にあるように、ビルのテナント等が使う光熱水道費に関し、勝手に料金を上乗せ・水増しされるケースが横行しているようです。
このような場合、法的にどうなるのでしょうか?
過払いの光熱水道費を取り返すことができるのか、実際に取り返す方法について、以下、解説します。
新宿・青梅・三郷の法律事務所、弁護士法人アズバーズ、代表弁護士で、中央大学のインハウスロイヤーである法実務カウンセル、弁護士櫻井俊宏が執筆しております。
1 無断の電気料金等光熱水道費上乗せは法的に有効か
これは、簡単に言うと、テナントが使う光熱水道費に関して、オーナーが全てのテナントに対し一括で請求して電力会社等に支払う場合、勝手に上乗せするということです。
水道光熱費はそこまで高くないのがほとんどなので、気がつかれない程度にこっそり上乗せしておくということです。
私が実際に一回多めに誤請求された月があったときは、「あれ?なんかいつもよりも光熱水道費が高いな…」と何となく違和感をもって気づき、指摘して直してもらえました。
しかし、通常は、特に上げ幅が小さいときは気づけないものでしょう。
私達のもとにもこのようなケースで既に3件程相談がありました。
オーナーは、このような請求が見つかった場合、
「商慣習に基づいているから合法」
「電気等の設備の維持管理費だから合法」
「ずっと何も言っていなかったから黙示の承諾(反対の意思がないことが承諾であるということ)があった」
等と主張します。
しかし,いずれの主張も法的になかなか通らない、すなわち、返還請求はできると考えてよいでしょう。
裁判所もそのように考えているようで、実際にかかった光熱水道費の実費以外は基本的に請求できないと厳格に考えている裁判例が多いです。
例えば、東京地裁平成29年9月13日裁判例は、光熱水道費とは「別の料金を徴収すると合意したような特段の事情」がない限り上乗せの請求は認められないとしました。
そして、本件で賃貸借契約書等に特段の事情はないものとして、賃借人の上乗せ料金200万円以上の取返しを認めました。
また、東京地裁平成27年2月27日裁判例は、賃貸人が、原告として約500万円の電気料の不払いを請求する訴訟を提起し、これに対し、賃借人が同じ訴訟の中で過払いがあるとして約750万円を請求する反訴を提起しました。
キュービクル(高圧で受電した電力を各賃借人の使用機器に合わせた電圧に降圧し、分配する機器)の保守費用は請求できるものと認めたものの、結果として、被告の差し引き約500万円の請求が認められるという結果となりました。
つまり、電気料の上乗せが過払い請求であったということです。
なお、法律上は特に反論がなかったことに対する「黙示の承諾」というものは簡単には認められませんので、この主張も排除される可能性が高いです。
2 過払いを請求できる場合と請求できる範囲は?
上記では、上乗せ分を過払いとして請求できた事例を挙げましたが、新しい令和3年6月3日の東京地裁の裁判例では、水道光熱費について、
「賃貸人が適正妥当と判断する方法で算出する。」
という記載がある場合に、電気の単価が東京電力よりそれなりに高額で計算されていたにも関わらず、有効であると判断されました。
このことから、まずは、契約書等、契約で計算方法で合意されているかどうかが重要であるようです。
しかし、そのような記載がない場合には、電気設備の保守料金等を除いて、賃貸人による請求は認められにくいとなっているようです。
特に、請求書の発行費用だとか、計算の手間賃といったような合理的でない請求理由は認められにくいとなるでしょう。
3 電気料金等の過払いはいつまでどの金額を請求できるか?
このような電気料金の上乗せ等の事例の場合は不当利得返還請求(民法703条、704条)といって、消滅時効になるまで5年あります。
そこで、少なくとも消滅時効によって消えていない直近5年分の過払いは請求できます。
これは、既に賃貸借契約が終わっていたとしても請求できます。
この場合の方が、今後関わり合いを持つ必要がないから精神的に請求しやすいですね。
相手方が、故意で(わざと)お金を乗せて請求していた場合、年3%の割合で遅延損害金という利息を付けて返還請求できます(民法404条)。
4 まとめ
実際には、賃借人側が上乗せに気づいて指摘すると、故意がある場合には詐欺罪が成立する可能性も否定できないこと、オーナー側は財産があるような大きい法人等であることが多いことから、交渉で返してもらえるケースが多いように思います。
しかし、このようなケースで、ビルのオーナーがお金がなくなっていた場合、取返しには
返還請求の裁判→強制執行(財産に対する差押)
をしなければならないのでとても大変です。
ですので、見つけたときはなるべく早めに弁護士に相談すると良いでしょう。
もちろん、光熱水道費の請求が過大な値段ではないかどうか、このようなケースも増えていることに留意して、毎月の請求時に目を光らせて良くチェックしておくことこそ重要です。
特に、不動産オーナーは、コロナで賃料収入が低かった時期があったので、それを補うために、この上乗せ請求、まだまだ増えそうな気がします。
現在、まだまだ判例が定まっていない分野のようなので、今後の裁判例の動向に注目したいと思います。
【2022.2.18記事内容更新】