宝塚歌劇団、楽天イーグルス、ビッグモーター、、パワハラがなぜ横行しているのかを弁護士が事例と共に解説

櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」千代田事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し11年目を迎える。


ビッグモーターからはじまり、宝塚歌劇団、楽天イーグルスの安楽選手の問題、、今年はパワハラ問題が次々と発覚しています。
正直なところ、これは取り上げるに値しないとは思いますが、日大の副学長が林理事長に対し1000万円の請求で訴えたのもパワハラを原因とするものです。

なぜ、このようなパワハラが今になって頻発するのでしょうか?
これは、根本から述べると、パワハラを許さないという時代の流れが、旧来の考え方から急速に進んでしまい、ついていけてない人がいることが原因となっているように思います。

 本記事では、

現代において、パワハラとは?
ビッグモーター、宝塚、楽天イーグルスのパワハラの問題とは?
なぜパワハラが表面化するようになっているのか?
・パワハラが起こらないようにする対策とは?

ついて、解説していきます。

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櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 現代において、パワハラとはどのようなことをいうのか?

パワハラとは、正式名称「パワーハラスメント」です。
職場のパワーハラスメントの定義として、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものと定義付けされています(厚生労働省のページより)。

①の要件は、以前は、「関係」が「地位」となっており、上司かどうかだけで判断していましたが、今では、「関係」と広く捉えられ、強い実態的な背景を持っていれば、部下からでもパワーハラスメントはありえるということになります。
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、という要件は、例えば、遅刻を繰り返す者に対し暴言にならない程度に何度も注意する等、業務上、やむをえない相当な言動は合法であるということです。

おそらく以前の日本では、暴力を振るったり、怒鳴りつけたりする等のみがパワーハラスメントに認定されると思われていたでしょう。
しかし、今日においては、例えば、部下に対し、「おまえ」と呼び続けることや、執拗に飲みに誘って断られると執拗に連絡してくる、夜に仕事の連絡をしてくる等、一見平穏な態様のこともパワハラにあたるとされています。

パワハラにあたる場合、もちろん、加害者に対する民事の不法行為(民法709条)の損害賠償請求の対象となります。
このパワハラによる不法行為は、業務に関連して行われるような場合は、使用者である会社に対しても請求できる場合がほとんどです(使用者責任。民法715条)。
賠償額は、単発的なパワハラは基本的には数十万円から100万円程度ではありますが、長期にわたるパワハラの場合や、被害者が、パワハラが原因となって死亡した場合には、数千万円からときには数億円にのぼることもあります。

では、パワハラは、刑事的にはどのような犯罪になりうるのでしょうか。
その態様次第では、暴力を伴う場合には、暴行罪(刑法208条。2年以下の懲役または30万円以下の罰金)、それによって怪我をした場合には傷害罪(刑法204条。15年以下の懲役または50万円以下の罰金)等になりえます。
言葉のパワハラの場合でも、脅迫的な場合はもちろん脅迫罪(刑法222条。2年以下の懲役または30万円以下の罰金)になり、嫌なことを無理矢理やらせるレベルまでに至った場合は強要罪(刑法223条。3年以下の懲役)になります。
また、他の人の面前で、本人の名誉を棄損するようなことを言った場合は、名誉棄損罪(刑法230条。3年以下の懲役若しくは禁固または50万円以下の罰金)が成立する場合もあります。

このように多様な犯罪が成立しうるため、逮捕されるようなケースもあるかもしれません。
パワハラは危険な行為であることを認識した方がよいでしょう。

 

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2 宝塚・楽天イーグルス・ビッグモーターのパワハラの問題は?

2023年は、ビッグモーターにはじまり、宝塚、楽天イーグルスと、次々と信じられないようなパワハラ問題が噴出しています。
これらの概要を説明します。

1 宝塚歌劇団における団員間のパワハラ問題

宝塚歌劇団においては、2023年10月頃から、宙組の団員が9月に転落死したことについて、団員間のパワハラがあったという疑惑が浮上しています。
これについては、宝塚歌劇団による調査が行われたのですが、ヘアアイロンを押し当てるという明らかなパワハラ行為が行われたことは発覚したのにそれは日常の行為で発生したと強弁したこと、4人の団員が聞き取りを辞退したことについてもスルーして、記者会見でいじめ・パワハラの事実はなかったと発表したこと等、調査の内容が問題であると批判されていました。
このことから、運営する阪急電鉄は、再度第三者による調査委員会を設置すると言及しているようです。
宝塚歌劇団は、それでもしれっと公演を再開しているようですが、これも問題ではないのでしょうか…
今後どのような事実関係が明らかになるか、要注目です。

いかにもこういった伝統芸能の類は、パワハラが日常茶飯事で横行していそうであり、「やはり」という印象を受けます。
それにしても、宝塚歌劇団を経営しているのは阪急電鉄だったのですね!この事件が発覚してはじめて知りました。

2 楽天イーグルス安楽選手のパワハラ問題

プロ野球の楽天イーグルスにおいては、2023年11月、安楽選手の単独による継続的なパワハラが発覚しました。きっかけは選手の告発です。
後輩の選手に対し、「バカ」「アホ」等の暴言をするのは日常茶飯事、飲みに誘い断られると執拗に深夜に電話をしてきてプレッシャーをかける、ひどい物では裸にして逆立ちをさせるというようなことも行ったとのことです。
実際に、選手一同で記念撮影をしている際、安楽選手が、前で座っている内選手に対し蹴りを執拗にしているシーンが公式の動画が残っており、X等で拡散されました。

これらの事実は、本件を看過できないものとして、球団自身が調査を行い、事実であったことが明らかとなったとのことです。被害者は10人程度。安楽選手自身も謝罪をしているそうです。
そして、球団は、11月末日、安楽選手を自由契約にしました。

正に部活の延長のようないじめであり、野球チームという団体は、なぜか昔からこのような上下関係が強い傾向があるため、これも「やはり」と思わせる業界であったといえるでしょう。
ホームランを通算300本以上打っている中田翔選手も、日本ハムファイターズ時代に後輩に対し暴力行為をしたとして、チームを追われました。

3 ビッグモーター社におけるパワハラ問題

ビッグモーターに関しては、パワハラを交えて「14万円以上の修理費」等の無茶なノルマを課し、暗にそのような行動を促していたという構図がありそうです。

このパワハラに関しては、例の副社長による「死刑死刑LINE」等、LINE上いろいろ残っていると思うので、弁護士に依頼して損害賠償請求も可能だと思います。
MBS毎日放送より引用

脅迫的なLINEがあったのみであれば、数十万円の賠償請求が認められるぐらいではありますが、それが繰り返され、うつ病になり、働けなくなった等の診断が出ている場合は、休業損害等も含め、100万円を超える賠償を請求できる場合もあるでしょう。
実は、元副社長が一番逮捕される可能性があるのは、ばっちり証拠が残ってしまっている、このLINEによる脅迫罪(刑法222条)かもしれませんね。

また、ビッグモーター社内の他のパワハラに関して、ビッグモーター社の店長を務めていた男性が、他の店長らが参加するLINE上で、上司から「会話すら成立しないなら店長下りろタコ」等と暴言を浴びせられ、2021年6月に解雇されたことにつき、2022年8月にパワハラの慰謝料請求や残業代請求として、約2000万円の支払いを求める裁判を提起しているそうです。
この後、なぜかこの男性は交通事故死しており、裁判は親族が引き継いでいます。
岐阜のビッグモーターでパワハラ訴訟 上司から「店長下りろタコが」LINEで暴言、うつに

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事務員

これ以上に具体的なことはわかりませんが、なんだか闇が多そうですね・・・。

3 なぜパワハラが表面化するようになっているのか?

なぜ、2023年に入って、このようなパワハラが次々と浮かび上がってきたのでしょうか。

これは、もちろんパワハラが増えてきたからということではないと思います。むしろ、世間の目はパワハラに対して厳しくなってきており、おそらく減っているはずです。

要は、やはり世間の目が厳しくなってきたことによって、被害者が我慢せず、公にして良い、むしろするべきという感覚がようやく浸透してきたからではないでしょうか。正に、楽天の安楽選手の件等はそのような場合に当たります。
そのような下の代の感覚の大きな変化に比べ、パワハラをやってしまう世代の感覚は根が深く、一向に変わっていないことも、まだパワハラが続いており、発覚する理由であると思われます。
すなわち、浄化が一巡するまでは、まだまだこのようなことがどんどん明らかになっていくでしょう。

4パワハラが起こらないようにする対策は?

このようなパワハラが起こらないようにする対策はどのようなものがあるでしょうか。

まず、もちろん、各団体において、パワハラに関する研修等を行い、どのような行為がパワハラにあたるか、本記事のように、パワハラと認定された場合、どのような不利益を被るかを構成員にしっかり把握してもらうことが最も大切です。

また、各会社において、ハラスメントの相談窓口を設けることも重要です。相談窓口に相談したら、その加害者と癒着していてよりひどい目にあった、ということが起きないように、相談窓口は、十分な独立性を保つことが求められます。
そのような事態を引き起こさないように、最近では、外部に委託した通報窓口が設けられていることもあります。私達の弁護士法人アズバーズでもそのような窓口をいくつか担当しております。

被害者の証拠収集対応も重要です。
最近は、パワハラの加害者のやり口も巧妙になっているので、メール等にパワハラ表現を残したりは簡単にはしないでしょう。
パワハラの言動が人前であったとしても、周囲の人は、自分の会社においての立場もあるのだから、そう簡単には証言をしてくれません。
やはり自ら録音することが圧倒的に重要です。

まとめ

いろいろなところでパワハラの話題が出ているので、もうパワハラについての感覚はほとんどの人は認識していると思っていたのですが、まだまだ、高齢の方や特定の業界を中心に、パワハラは当たり前の行為であると思って行っている人が非常に多く感じられます。

更に、徐々に、パワハラに対する風当たりは強くなっていくことになるでしょう。
しっかりとした対策を講じていくことが、企業や個人の身を守ることになると思います。

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