契約社員等に対する賞与不支給問題に関する最高裁判決 同一労働同一賃金の原則との関係

菊川 一将

菊川 一将

「弁護士法人アズバーズ」青梅事務所所長弁護士。 小・中・高校の10年間、バスケットボール一筋。2017年に弁護士法人アズバーズに入所。


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こんにちは。弁護士法人アズバーズの所属弁護士、菊川です。契約社員等に対する賞与不支給問題についてお話します。

大きな話題となっていた2つ(3つ)の労働事件に対し,同じ日付で最判令和2年10月13日判決が言い渡されました。

結論としては,アルバイトや契約社員に対してボーナスや退職金を支給しないとする契約内容は,(名言はしていないものの)「同一労働同一賃金の原則(改正前労働契約法20条,現短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)8条)」との関係で不合理ではない,つまり支給しなくても違法ではない,ということになっています。

1 同一労働同一賃金と賞与 大阪医科大判決の概要

まず,同一労働同一賃金の原則とは,労働の内容や責任等が同じなのであれば,有期契約か労働契約かのような形式のみをもって,賃金その他待遇において不合理と認められる相違を置いてはならない,という原則です。ンダーライン1

この記事では(おそらく後に)大阪医科大事件(と呼ばれるであろう)を念頭に置いてお話をします。

本件は,大阪医科大学に,アルバイト(1年毎に更新があり,最長5年まで更新がありうる有期労働契約)として雇用されていた原告が,自身に賞与が支給されないのは違法であると主張し,その支払いを求めた事件です(傷病手当の請求も行っていますが,こちらは割愛します)。

原審(高等裁判所)はこれに対し,

「第1審被告の正職員に対する賞与は,・・正職員としてその算定期間に在籍し,就労していたことの対価としての性質を有するから,同期間に在籍し,就労していたフルタイムのアルバイト職員に対し,賞与を全く支給しないことは不合理である。・・。」

と判示しましたが,最高裁がこの判断に待ったをかけたのが今回の判決です。最高裁は,

「・・・(賞与不支給が不合理と言えるか否かの)判断に当たっては,他の労働条件の相違と同様に,当該使用者における賞与の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより,当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。」

とした上で,

「・・賞与は,・・基本給とは別に支給される一時金として,・・その都度,・・支給の有無や支給基準に応じて決定されるものである。また,上記賞与は,通年で基本給の4.6か月分が一応の支給基準となっており,その支給実績に照らすと,第1審被告の業績に連動するものではなく,算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償,将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものと認められる。そして,正職員の基本給については,勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給するものとされており,勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有するものといえる上,おおむね,業務の内容の難度や責任の程度が高く,人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていたものである。このような正職員の賃金体系や求められる職務遂行能力及び責任の程度等に照らせば,第1審被告は,正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から,正職員に対して賞与を支給することとしたものといえる」

とし,

「そして,・・正職員とアルバイト職員である第1審原告の・・「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」(以下「職務の内容」という。)をみると,両者の業務の内容は共通する部分はあるものの,第1審原告の業務は,その具体的な内容や,第1審原告が欠勤した後の人員の配置に関する事情からすると,相当に軽易であることがうかがわれるのに対し,教室事務員である正職員は,これに加えて,学内の英文学術誌の編集事務等,病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務又は毒劇物等の試薬の管理業務等にも従事する必要があったのであり,両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。また,教室事務員である正職員については,正職員就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があったのに対し,アルバイト職員については,原則として業務命令によって配置転換されることはなく,人事異動は例外的かつ個別的な事情により行われていたものであり,両者の職務の内容及び配置の変更の範囲(以下「変更の範囲」という。)に一定の相違があったことも否定できない。さらに,第1審被告においては,全ての正職員が同一の雇用管理の区分に属するものとして同一の就業規則等の適用を受けており,その労働条件はこれらの正職員の職務の内容や変更の範囲等を踏まえて設定されたものといえるところ,第1審被告は,教室事務員の業務の内容の過半が定型的で簡便な作業等であったため,平成13年頃から,一定の業務等が存在する教室を除いてアルバイト職員に置き換えてきたものである。その結果,第1審原告が勤務していた当時,教室事務員である正職員は,僅か4名にまで減少することとなり,業務の内容の難度や責任の程度が高く,人事異動も行われていた他の大多数の正職員と比較して極めて少数となっていたものである。このように,教室事務員である正職員が他の大多数の正職員と職務の内容及び変更の範囲を異にするに至ったことについては,教室事務員の業務の内容や第1審被告が行ってきた人員配置の見直し等に起因する事情が存在したものといえる。また,アルバイト職員については,契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたものである。これらの事情については,教室事務員である正職員と第1審原告との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり,労働契約法20条所定の「その他の事情」(以下,職務の内容及び変更の範囲と併せて「職務の内容等」という。)として考慮するのが相当である」。

と判示しています。長いですね・・。

2 判決の解説

要するに,

賞与は単なる会社への長期在籍に対する対価という性質のみならず,労務の対価の後払い,功労報奨,将来への意欲増幅という趣旨を含むものであること,基本給の昇給に見られる一種の職能給の性質をも加味し,賞与の支払いは「正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から,正職員に対して賞与を支給することとした」といえるとし,正職員のみに賞与を支給することに一定の合理性が認められるとした上で,

②正職員は業務の内容や責任の程度も高く,人事異動も行われていたのに対し,アルバイト職員の業務は軽易であり,人事異動も原則として行われておらず,業務の内容や配置の変更に一定の相違があったことから,必ずしも「同一労働」とはいえない

③教室事務員の業務内容は確かに軽易かもしれないが,それには一定の事情があること,アルバイト職員には職種変更のための登用制度があり,改正前労働契約法20条(現パートタイム労働法8条)にいう「その他の事情」として会社側に斟酌すべき点があること,

から,賞与不支給を不合理とまではいえない,と判断しました。

3 考察

一審から読んでいるわけではないので詳細はわかりませんが,事実認定されている範囲では,確かに,いわゆる正社員とその他とで業務内容や責任・配転の可能性に相違があるように思えますから,事実認定のレベル同一労働同一賃金の原則の適用が難しい事例なのかな,と思いました。また,賞与の性質も,高裁のように単に「会社に在籍して就労していたことの対価である」とするのみではなく,長期雇用を前提とした労働者にのみ支払うことが想定されていた(そしてそれは不合理ではない)だと判示しており,概ね雇用主側に寄った判決かと感じました。

ただ・・アルバイト等への賞与不支給が不合理だから支払えとの話になったとき,実際上どんな問題が起こるかというところも無視するわけには行きませんから,そうした視点から見ると妥当な判決なのではないかな,と思います。

経過措置を設け,一定時点以降からの契約のみ対象とするというかたちを採るなど,立法で解決すべき問題かもしれませんね。

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