先日、2年間以上争っていた交通事故事件が良い形で終了しました。
事故状況について、依頼者の方と相手方の言い分が全く食い違っている上、警察の実況見分調書も、こちらの本人の方がバイクで、相手方は自動車というこちらが被害者の件なのに、相手方の言い分に全面的に沿った内容であったため、裁判で徹底的に争われました。
このような場合、当事者が現場で事故状況を再現することについて意味はあるのでしょうか。
実際、この件でどのような再現を行ったかと合わせて、お話します。
・本件でどのような現場調査と事故の再現を行ったのか?
・事故状況の再現を裁判で提出することに意味はあるのか?
・実況見分調書とは?どのように提出するのか?
等について解説します。
交通事故事件をこれまでに720件以上解決している千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。
1 本件でどのような現場調査と事故の再現を行ったのか
こちらの言い分を立証するために、田無とひばりが丘の間にある事故現場まで3度も通いました。
しかも、そのうちの1回は、現場で事故状況の再現をするために、日曜日の朝7時に行きました。現場は住宅街で車線等はないような道路とはいえ、平日や昼間だとそこそこ車が通るところなので、再現ができなくなる恐れがあったからです。
現場で、自動車と、バイクの代わりに自転車を用いて、事故状況の再現をし、写真を数枚撮りました。
その写真を連続的に貼り付け、その状況についての説明文を添えて「報告書」を作り、裁判所に証拠として提出しました。
以前も二子玉川におけるバイクと自動車の交通事故事件で同じことをやりましたが、その証拠を目にしたことで裁判官の態度は大きく変わり、成果を得ることができましたので、今回もチャレンジしました。
2 事故状況の再現を裁判で提出することに意義はあるのか
事故状況について、加害者と被害者の言い分が完全に違うとき、特に過失割合についての主張の違い等が著しいときは、この事故再現と証拠化は有効です。
裁判官も、事故に関するイメージがわきやすくなるからです。
事件の状況の再現というと、痴漢の冤罪をめぐる傑作映画「それでも僕はやっていない」(リアリティがあり,名作です。)では、専門の業者を頼んで、専門的に行っていました。このように、本格的にやらなくては意味がないのではないかと思ってしまいますよね。
しかし、それではかなりの費用がかかってしまいます。
実際には、
①裁判官が、全くイメージがわかないところに、少しでもイメージを持ってもらう、
②裁判官に熱意を伝え、こちらに有利な和解を進めてもらう、
ということが目的であるため、手作り感満載の再現でも良いのです。
加害者側は、保険会社が、最終的に、客観的な状況に基づいて賠償額をどれぐらいなら払うかということを決めるので、そのような証拠であっても、一定の確からしさがあれば、裁判官が代理人と保険会社を説得してくれることが多いです。
裁判官も人間ですから、熱意を持った訴訟追行をしていると有利に取り扱ってくれるケースは往々にしてあります。
このケースでも、裁判官に事故状況と熱意が伝わり、裁判官から、私達の言い分をかなり認めてくれた和解を提案してもらうことができました。
お客様にも満足していただき、とても充実した気持ちです。
3 実況見分調書とは?どのように提出するのか?
この現場調査・事故再現は、実況見分調書も出していない段階でやるべきではないです。
この点、私文書偽造罪の「実況見分調書」とは、警察が、事故現場で行った実況見分という調査の結果を記したものです。
当事者の任意の協力で行われるもので、通常、交通事故の刑事事件の重要な証拠として利用されるために作成されます。
しかし、正規の取り寄せ方をすれば、当事者が民事事件でも使えるということです。
弁護士が代理人になっている場合に、弁護士が弁護士会を通して警察に打診してもらい、開示してもらうという「弁護士会照会」でできます。
また、民事の裁判を提起して、その中で、裁判所を通して警察に開示の打診をしてもらう「文書送付嘱託」でもできます。
この実況見分調書は、現場の見取り図や当時の当事者の乗り物の動き、明るさや見通し等の現場の状況が記載されたものです。警察が客観的に作成したもので、基本的に信用できる内容であるものとして、裁判所は、まずは実況見分調書を通して事件を把握します。
当事者は、とりあえず実況見分調書は開示してもらって、この実況見分調書の内容に疑いがある場合や、その中で言及されていないことについて立証したいときに、はじめて、この再現の手法が意味をなすことになります。