こんにちは。最近,とある不倫騒動についての話題がありました。
知らない人のために書かせてもらいますと,とある芸能人が複数人の方と不倫をしたというニュースがありました。
1 複数の人と不倫をされた場合,不倫相手それぞれにいくら請求できるのか。
こういうこともあるんだな,と思うのと同時に,多くの人は,複数人との不倫では,慰謝料額はどうなるの?と考えるのではないかと思うのですよね。
そこで,本日は,複数の不倫があった場合,不倫相手への慰謝料請求はどうなるかについて検討します。(色々な考え方がありうると思うので,一つの考えとしてお読みください。)
2 ケース
私は,去年の8月に長らく付き合っていた男性と念願の結婚をしたJといいます。 最近,夫が知らない女性と仲良く話していたので,浮気をしているのでは?という懸念があり,夫に聞いたのでした。 しかし,夫はなんだか不機嫌になったみたいで,不愛想にそんなことは無いと言うだけでした。 どうにかして,浮気をしていないか判断できないかなぁと思っていたら,夫がお風呂へ向かった時,置いてあった夫のスマホから明かりが漏れている。私は,すぐにスマホの中を調べました。 スマホには,5人の女性と親しく連絡している様子や一緒にいる写真がありました。 そして,夫はラブホテルで5人の内の3人と思われる女性と,それぞれ肉体関係がある写真や動画があったのです。 私は今後離婚をする予定はありませんが,不倫相手それぞれに対して多額の慰謝料を請求したいです。 |
3 問題提起
ここで,まず,夫婦が離婚しない場合,不倫相手に対して一般的に慰謝料は50~100万円ほどが最終的に認められることが多いといわれています。
なので,とりあえず一律に50〜100万円が認められるとします。
そして,ここでの問題は①Jさんは不倫相手それぞれに対して50~100万円を請求して5人で合計250~500万円をもらえるのか。
それとも,②5人で合計,50~100万円を限度でしかもらえないのか。を検討していきたいと思います。
結論としては,私の考えは②です。
3 そもそものお話
婚姻関係がある人が,浮気をした場合,浮気相手に何ができるのか?を検討したいと思います。
⑴ 二人の愛を侵害した相手に,何を言えるのか
夫婦や,夫婦に類する人たちには,婚姻共同生活の維持という権利 又は法的保護に値する権利が発生すると言われております。
そのため,これを侵害した場合には,その補填として損害を金銭で賠償する必要があります。
これがいわゆる慰謝料請求の権利ですね。
かなり小難しいことを書きましたが要するに,二人の生活を侵害したら,お金で補填をしなければならない。ということになるかと思います。
逆をいえば,そもそも婚姻共同生活の維持という権利が無くなっているならば補填の必要も無いとも言えます。
⑵ 婚姻共同生活の維持の侵害って何?
では,婚姻共同生活の維持の侵害とは何かを検討していきます。婚姻共同生活の維持の侵害とは,簡単にいえば,もう一緒に夫婦として生活できません!というものです。
Jさんは,二人が仲が良さそうに話していました。と述べていますが,この段階で婚姻共同生活の維持の侵害が生じているといえるでしょうか。
結論として,これだけだと婚姻共同生活の維持の侵害とはいえないと考えられます。なぜなら,これだけで,『もう一緒に住めません!』とはならないからです。もちろん,毎日長時間,仲が良さそうに話している,というのでは変わります。
では,実際に肉体関係があった場合はどうでしょうか?
これは,一緒に住めないと言えます。
他にも例えばJさんの旦那が糖尿病で性的に不能な状態であっても,ラブホテルでイチャイチャしていた!
といった場合でも,一緒に住めないといえます。(実際に,裁判例で権利侵害が認められているケースが多くあります。)
このように,かなりグラデーションがある話ではありますが,夫婦として一緒に生活できなくするような行為があれば,婚姻共同生活の維持への侵害といえます。すなわち,性的行為があれば確実ですが,性的行為があったかだけが婚姻共同生活の維持の侵害侵害行為ではないといえます。
上記ケースでも,ラブホテルに一緒に行った3人に対して侵害行為があったことを請求できることはもちろん残りの2人にも請求できる可能性があります。
4 具体的な検討
前置きが長くなりましたが,複数の人と不倫関係になったら,慰謝料額はどうなるのかを検討します。前提として,夫婦の共同生活の維持を侵害した場合に慰謝料を請求する権利が発生するのでした。
例えば,一人目の不倫相手で,夫婦の共同生活が90%破壊されたとします。そうすると,二人目の不倫相手は婚姻共同生活の維持という権利を侵害する余地は10%だけであり,その10%分だけ慰謝料を請求する余地が残るのではないかと考えられます。
そのため,観念的には,2人目,3人目,4人目と複数の不倫相手が生じた場合,未だ侵害を受けていない点を侵害した場合,侵害した分の慰謝料を請求できるが,共同生活を破壊していた箇所を侵害した場合には慰謝料は発生しない。といえそうです。
まぁ,実際には,2人目,3人目……と,新たになんかしらの侵害をしていると考えられるので,そのようなことはないとは思います。
なので,慰謝料額については,増額する事由になるが,それぞれが50~100万円ずつを支払うとはいえないと考えます。(それぞれが,100%を侵害しているとはいえないということです。)なので,結論としては②,Jさんは,それぞれの女性に対して,合計で50~100万円をもらえる権利が発生する。という結論になると思われます。
5 余談
上記の慰謝料は,それぞれの不倫相手に対して全額である50~100万円を請求できますが,合計として50~100万円までしかもらえません。今回のような不倫行為は,いわゆる不法行為といわれます。
そして,不法行為の場合,被害者保護の観点から,お金を持っている人から全額もらえるように法律上認められているのです。これを,不真正連帯債務といいます。もちろん,不倫相手の人たちの間で負担割合があるので,その負担割合は不倫相手の人たちで決めることになります。そして,裁判例では,この考え方を前提としているものがあります。
例えば,東京地裁平成15年11月6日や,東京地判平成22年7月6日の裁判例は,他に不倫相手がいるから(私の負担割合は少ないから),私の慰謝料額は減らしてください,という主張を認めておりません。一応,東京地判平成25年4月17日の裁判例では,他に不倫相手がいるから,私の慰謝料額は減らしてください。という主張を認めています。
しかし,この裁判例をよく読むと,不倫をした夫が,夫婦間での同居に不満を有していたことすなわち,婚姻関係がすでに一部壊れていたことの主張を認めたとも読めます。婚姻共同生活の維持という権利が既に数%減っていたということですね。そのため,それぞれの裁判例で矛盾はしないのではないかと思います。
6 最後に
個人的には,考えてみたら,意外と奥が深いのでは?と思わせるお話でした。
上記のケースでは,50~100万円と書きましたが,色々な考慮要素から判断するので,実際はもっと低いかもしれませんし,もっと高いかもしれません。なので,一律に何でも判断せずに,似たようなことがあったら専門家に聞いてみてもいいかもしれませんね。
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