本社異動で実質リストラ!? 中抜きのパソナと損保ジャパン【弁護士が解説】

最新時事問題の法的考察
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新宿・青梅・三郷の弁護士法人アズバーズ代表であり、中央大学の労務全般を担当する法実務カウンセル、弁護士の櫻井俊宏です。

このたび、オリンピック事業、給付金配布事業において、えげつない中抜きをしたと噂されているパソナ社が、都心から遥か遠く、兵庫県の淡路島に本社を移すという報道がされました。

新型コロナの影響で、東京・大手町から兵庫県淡路島に本社機能の一部移転を進めていた総合人材サービスのパソナグループが、今年の秋までに新社屋を淡路島に建設するという。2024年5月までに、東京本社で勤務する約1800人のうち約1200人が淡路島へ行くことになるそうだ。 Yahoo!ニュース

これに関し、パソナ社は、解雇にしたい従業員に本社異動を命じるのではないかとまことしやかにささやかれています。

さて、日本の労働法における「解雇」の法律的現状について説明した後、この噂について、似たような事案である損保ジャパンのケースも比較して解説します。

1 解雇の困難性と異動の不当性

以前の記事でも説明しましたが、日本では、労働者が働き続ける権利は「終身雇用制」の歴史的経緯により強く保護されており、よほどの理由がない限り、解雇は濫用であるとされ、認められません。
これを「解雇権濫用論」といいます(労働契約法第16条)。

この余程の理由というのは、犯罪行為に匹敵するような事情が必要です。
これより軽い事情の場合は、そのことに関して使用者側が注意を繰り返し、それでも違反を続けていたというような事情が必要になります。

欧米等の他の国はこのような厳しい規制はないようで、日本が、特別に解雇しにくい国だということになります。

「異動」に関しては「このようなへんぴな所への異動は許せない。」と良く相談をいただくのですが、

不当な異動というのは労働法上、よっぽどの不当な理由が明らかになっていない限り成立しません。

2 パソナの本社機能移転

パソナが本社機能を移転したのは、もちろん、コロナ禍においてリモート化が進行したことで、本社を都心におくことの無意味さからでしょう。

  • 都心よりも郊外の方が箱代(オフィスの賃料)がかかりません。
  • 都心の方が密でコロナの危険があります。
  • 郊外の方が通勤ラッシュを避けることができます。

このように非常にいいこともいっぱいあります。

しかし、いざ従業員が淡路島本社に異動を命じられると、家庭・人間関係の理由で困るのが通常でしょう。

そこで、パソナがリストラしたい従業員は、確かに、本社異動を命じられれば辞める可能性が高いので、実質的なリストラになると言えます。

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もしそのような意図があるとすれば、恐ろしく合理的な手法です。
これをやられると、先程お話したように、「不当な異動」というのはそうそう考えられないので、労働者としてはなすすべがありません。さすが給付金事業のときもいろいろ言われていた会社です…

なお、このいろいろについて少しお話しますと、オリンピック事業で、国から受け取る費用を97%中抜きして、庶務を外注しているのではないかという疑いで、もはや「中抜きのパソナ」として有名になってきています。
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そして更に、2021年11月現在では、今度は18歳以下への給付金について、現金給付であれば配るのに300億円の経費で済むところ、クーポン給付があることにより、1200億円の経費を予定しているようです。
前回の持続化給付金でも電通・パソナが暗躍していていたそうですが、また同じように中抜きがなされるのでしょうか。
確かに、中抜きは、担当者に対しキックバック等がない限りは、「法的には合法」ではあるのでしょう。
しかし、だからこそ、政権というものを使った問題のある利権行為だと思います。

皆様は、この問題に対して反抗の声を高らかに上げ、ストップをかける必要があるように思います。

 

3 損保ジャパンのワタミ介護事業買収

この実質リストラの話を聞いて損保ジャパンのケースを思い出しました。

損保ジャパンは、あの「ワタミ」の介護事業部門を買い取りました。

このときも言われていたのが、損害保険というものに携わりたくて損保ジャパンに入った人が、介護部門に突然移されても、どうにもならないし、辞めるしかないです。
そうだとすると、介護部門への異動命令は実質的なリストラではないかと。

もしそうだとすれば、パソナは地域的距離を生かして、損保ジャパンは業種の違いを生かして、という違いはあるものの、不本意なところに追い込んでの「実質リストラ」という構図はほぼ同じといえるでしょう。

実際かなりの人数が介護部門に移ったそうですが、その後、どうなっているのでしょうか。

4 まとめ

結局、このような裏技的方法が現れているのは、それは、異常に解雇をしにくい日本の法律が現代にそぐわなくなっているのでしょう。

大手でも給与が年功序列でなくなっている等、終身雇用制は崩壊し、仕事に人をつける「ジョブ型雇用制」に変わっていくだろうと言われています。

先述のように、他の国ではここまで解雇をするのは、法律上難しくありません。
解雇することが困難を極めるとなると、従業員も安心して、向上の意欲を失ってしまう可能性もあります。

解雇が当たり前の世の中になっても、転職が当たり前の世の中になればいいだけのことです。

解雇権濫用論は見直しを迫られているのかもしれません。

【2021.11.29内容更新】

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櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」新宿事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し7年目を迎える。

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