交通事故で意識障害等により成年後見人が必要な場合【後遺障害1級】

最新時事問題の法的考察

交通事故に遭って、被害者が遷延性意識障害(意識が戻らなくなっている、いわゆる「植物状態」)や高次脳機能障害で、法律的な意思を有効に表示することができないような状態になっている場合、その意思表示が法律的に有効でなくなるので、相手方(保険会社)と示談をするにあたって、成年後見人をたてざるを得ない場合があります。
成年後見人について説明した後、交通事故事件において成年後見人を立てる場合に考えることを解説します。

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交通事故事件を720件以上解決している、新宿・青梅の弁護士法人アズバーズ、代表弁護士の櫻井俊宏です。


成年後見人に就く件も10件以上経験しております。

1 成年後見人とはなにか

成年後見人とは、本人が法律的な意思表示をできなくなってしまっている場合に、本人に代わって本人の財産を管理し,本人に代わって意思表示を行う者です。

本人の親族等が裁判所に成年後見人をたてる旨の申し立てをし、裁判所が成年後見人を任命します。
申し立てた人から「候補者」が立てられているときは、候補者がその事案において適切であるかどうか、書類と裁判官との面接で判断します。

候補者が立てられていないときや、候補者が、本人との関係・財産状態・知識等の点から適切でないとされたときは、裁判所にある成年後見人の名簿から、裁判所が適切と考える成年後見人が立てられます。

成年後見人の申立・権限・報酬等についてはより詳しく後述します。

2 交通事故における成年後見人

交通事故があった場合、治療後、症状固定(これ以上はあまり回復が望めないという状態)となり、後遺障害認定がされます。

交通事故の後遺障害の連載記事はこちら
この場合に、上記のように、「遷延性意識障害」や「高次脳機能障害」等で法律的な意思表示を有効に行うことができない場合は、成年後見人をたてることになります。
今までに私達の弁護士法人アズバーズでは、このような件を3件遂行しております(遷延性意識障害で後遺症等級1級の件が2件。他の1件は、法律的な意思表示をする能力が不十分という場合で「保佐人」になった事案です。)。

これまでは、本人の財産が大きい場合には、成年後見人は被害者の家族が就くことがなかなか認められず、弁護士等の専門家でなければ認められませんでした。

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これは、客観的な第三者でない家族が成年後見人になると、財産の「横領」が頻発していたからです(ご存じのように、弁護士でも横領を行う者も多く、情けない限りではありますが…これでも家族による横領の事例の方が遥かに多いのです。なお,弁護士が横領する場合に備えて、成年後見人の名簿に掲載される弁護士が保険に入る制度ができました。下記の記事に詳しく書いております。)


このことから、多額の損害賠償請求権が見込まれる遷延性意識障害等の交通事故の事例においては、家族を成年後見人候補者に指定しても認められない事例が多かったはずです。

しかし2019年に厚労省で行われた第二回成年後見制度利用促進専門家会議において、最高裁判所は、
本人の利益保護の観点からは、後見人となるにふさわしい親族等の身近な支援者がいる場合は、これらの身近な支援者を後見人に選任することが望ましい
として、家族による成年後見人を奨励する見解を示したそうです。

まだ、この運用は浸透していないと思われますが、今後各裁判所の運用がどうなっていくか、注目されます。

3 裁判所ごとの成年後見人に関する運用

この成年後見に関する裁判所の実際上の運用は、地方によって随分違うようです。

例えば、候補者について、
「第一に家族の○○、それが駄目なら第二に弁護士の△△」
というような予備的な記載ができるかどうかも場所によって変わってくるかもしれないので、先に、担当する裁判所に問い合わせてみるのもいいかもしれません。

実際に家族を成年後見人に設定することができれば、弁護士が代理人として必要なときも、成年後見人となった家族が、本人のお金をもって弁護士に依頼することもできるので問題ありません。
もちろん、その成年後見人となった家族が自分で保険会社と交渉することも可能です。

なお、弁護士を候補者に立てる場合、以前は裁判所の成年後見人名簿に載っていない弁護士の場合でも任命される場合はありました。
しかし、最近は、成年後見人名簿に載っていない弁護士を候補者に指名しても任命されない裁判所が増えているようです。

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また、そもそも、弁護士が成年後見人名簿に載る要件も厳しくなってきており,成年後見人業務をできる弁護士は意外と少ないです。

ここから先は成年後見の申立・権限・報酬等一般的なことをお話します。

4 成年後見の申立と開始

その人の判断能力が乏しくなっていると、法律的に「意思能力」がないといい、その者の法律的な意思表示、例えば「この不動産を買います。」と思って契約書にした署名・押印は無効となります。
そこで、そのような状態で、後に法律的な意思表示が無効となるような事態にならないように、成年後見人をたてる必要があります。

以前は「禁治産者」と呼ばれていた制度が「呼び方が差別的である」として、呼び方を変え、内容もアレンジを加えた制度がこの成年後見人制度です。
なお、これより意思能力が多少ある場合として「保佐」と「補助」という制度があります。
これらについては機会があれば説明します。

成年後見人は、原則として、成年後見を受ける本人の親族等の申立により始まります。

申立て自体は、そこまで難しいものではないので、必ずしも弁護士が代理しなくてはならないというものではありません。
現にご自分で申立てられたケースを何回か担当しております。
本人の経歴や財産についての情報、本人の財産を相続する相続人候補者の意向等を記載する必要があります。

弁護士が代理して申立てる場合は、だいたい事案の大きさによって、費用として20万円~30万円ぐらいが通常です。
その他、本人の意思能力をチェックするために診断書が必要です。
これは、裁判所の書式によるもので、診断書の作成費用も裁判所の方から5万円~10万円ぐらいと決められています。

また、この申立書には、成年後見人の候補者を記載することができます。
親族自身や、既に知っている弁護士を候補にすることができます。

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しかし、もうちょっと前は、どの弁護士も候補者にできたのですが、最近は、成年後見人に就任できる者は、私のように裁判所の名簿に掲載されている者に限られている裁判所が多いです。


そして、本人に大きな財産がある場合には、有資格者ではない親族は就任できないし、弁護士以外の職業の者ができない場合も多いです。
本人の財産を横領する者が多いので、どんどん制度が厳しくなっているからです。

 

5 成年後見人の業務と報酬

主に財産管理です。
通帳や不動産の権利書等を預かって管理します。

成年被後見人(本人)の動向をチェックするため、本人に届く郵便を成年後見人のもとに転送するのが通常です。

その他、ある程度本人の体調等を把握しておく必要があります(身上監護)。
介護施設等に入ることを検討した方が良い状況になることもありうるからです。

そのために、成年後見人は1~2ヶ月に1回程度、本人に会いに行くことが多いです。

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なお、誤解している方も多いですが、成年後見人はあくまで成年被後見人のための成年後見人です。
一緒に居住している相続人候補者の代理人ではありません。
後の相続のための話には基本的に入っていけないし、助言も基本的にはしません。
このことについては、機会があれば詳しく解説します。

成年後見人の報酬は、本人の財産が平均程度の財産であれば、月額3万円前後が通常です。
弁護士が行う「企業の顧問弁護士」の最低額(旧弁護士報酬基準)と同じ程度ということになります。

これに加えて、例えば本人の所有する家を売却する等、手間のかかる手続を成年後見人が行ったときは加算報酬があります。
売却した不動産の金額に応じて、通常数十万円程度増額します。

この報酬は、成年後見人が裁判所に対して年1回報告を行うのですが、この際に報酬請求の申立を行います。
これに応じて、裁判所が、1年間の業務内容をチェックして報酬を設定するわけです。

裁判所の報酬決定がされると、成年後見人は、本人の預金口座等から、報酬を受け取ってよいことになります。

なお,成年後見人が横領をするということが多いことはご存じだと思います。
この横領が起こるときは、上記の年間報告が滞ってからが多いようです。
成年後見人の年間報告が1年ぐらい遅れていたら,要注意段階と言えるでしょう。

専門家ではない成年後見人が横領をするケースは非常に多いです。
しかし、弁護士のような専門家でも、残念ながら横領するケースもあります。
そこで、最近では、専門の信用保証保険ができて、これに入っていないと裁判所の成年後見人のリストに入れないというようになっています。
弁護士成年後見人信用保証制度について

6 まとめ

以上のように、交通事故で、いわゆる植物状態等のときは、家族がそのまま保険会社と示談できるわけではないので、注意が必要です。
難しい問題なので、自分達で解決する場合であっても、一度は弁護士等の専門家に相談してみるのが良いでしょう。
【2022.6.13記事内容改訂】

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櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」新宿事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し7年目を迎える。

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