スシローの迷惑行為は和解 迷惑動画の犯罪と賠償責任【弁護士が解説】

最新時事問題の法的考察

2023年1月末頃から、大手開店寿司チェーン店のスシローで、また客による迷惑行為があったことの動画が拡散されました。
スシロー 客の迷惑行為に法的措置

2013年頃、SNSでバズるために、客がスーパーでアイスクリームのボックスに入って寝たり、飲食店で客が、醤油さしを鼻に突っ込んだりという迷惑行為を行い、それを撮影してSNSでアップするという行為が流行となり、それを行う者は、「バカッター」とか「バイトテロ」とか呼ばれました。
更に数年前も再発し、今また、スシローでこのような行為が起きました。
インフレ等による不景気のせいか、世の中が停滞してくると頻発する流行病なのでしょうか!?

スシロー事件は、回っている寿司につばを付けたり、ワサビを付けたり、他の人の注文した寿司を食べたり、この後誰かが使う湯飲みをなめたりという行為でした。後に利用した人は汚い目に遭うし、その被害に遭ったかどうかもわからないので、そもそも店に行きたくないという声があがっています。
ただでさえコロナのダメージが深い飲食店としては、さらなるダメージです。

そして、その後の2月3日頃、この模倣犯として、くら寿司において、醤油さしを加えて醤油を飲む動画をあげた愚かな者が現れました。
このくら寿司事件の21歳の男は、遂に業務妨害罪の容疑で逮捕されました。時期からして明らかに模倣犯であり、警察の逮捕の判断は英断だと思います。

くら寿司で醤油さしを口に…21歳男ら3人逮捕

飲食店での迷惑行為とSNSのアップはどのような犯罪が成立するか?
迷惑行為とSNSのアップは数百万円以上の賠償が発生するのか?
バカッター等を行うとその後どうなるのか?防止策はあるのか?

等について解説します。

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

 

1  飲食店での迷惑行為はどのような犯罪が成立するか?

流れている寿司に、つばやワサビをつける行為は、寿司を食べられない状態にして「効用を喪失させたものとして」器物損壊罪(刑法261条。3年以下の懲役又は30万円以下の罰金の成立が考えられます。
この器物損壊罪は、警察に対して告訴(加害者の犯罪責任を問う被害者の意思表示)が必要な親告罪です。

他人の注文した寿司を勝手に食べた場合、店又はその注文した客に対する窃盗罪(刑法235条。10年以下の懲役又は50万円以下の罰金)が成立する可能性があります。この店のものを食べてしまうというのは、炎上系ユーチューバーのへずまりゅう氏が、スーパーの物を会計が終わる前に食べて窃盗罪になったことで話題になりましたね。

また、唾やワサビをつける行為等、他の客候補の人達を「自分がスシローに行った際の寿司にも唾が塗られているかもしれない。」と困惑させて業務を妨害しているといえます。そこで偽計業務妨害罪(刑法233条。3年以下の懲役又は50万円以下の罰金の成立の可能性もあります。

業務を妨害するために、デパートの売り場の商品の布団に縫針を混入させる行為に偽計業務妨害罪が成立した裁判例もあり(大阪地裁昭和63年7月21日裁判例)、寿司という商品に細工をするという点で同じような事案といえるでしょう。

さらに、客や店員であっても、こうした行為をする人は、お店としては迷惑であり、入店以前から来てほしくない者ということになります。
そこで、施設の管理権者の意思に反して店にいるということで建造物侵入罪(刑法130条。3年以下の懲役又は10万円以下の罰金)も考えられます。

警察は、事件それ自体の被害の大きさだけでなく、その事件の社会的な影響力などを加味して、どのような刑事処分に繋げるかを考え、捜査を行うことがあります。

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最近の事例をみると、SNSに犯罪行為が投稿された場合は、それに刺激された人による「模倣犯」の連鎖を考えるからでしょうか、逮捕等を含む強制捜査に踏み切ることが多いようです。正に今回のくら寿司事件はそのような結果ですね。なので、このようなSNS炎上行為は、行うと逮捕される可能性が高いといえます。

警察による捜査が終わると、事件は検察に送られます。
検察は、この事件を刑事裁判として起訴するか、それとも起訴せずに終結させるか(不起訴処分、起訴猶予処分)を判断します。
上のいずれの犯罪も、犯罪自体としては比較的重くない犯罪なのですが、上記のとおり、最近は立件される場合が多いようです。
実際、2013年のアイスケースで寝っころがった件は器物損害罪で書類送検、2016年、地震の際に動物園からライオンが放たれたとツイートした人は動物園職員に対する偽計業務妨害罪で逮捕されています。

そして、最近、ホームレスのおばあさんに物を買ってあげるとだまして、レジのところに放置して面白がっていた女性達が、逮捕されました。
上記で説明したように、買う意思がないのに店の中に入ってくる人は、店の意思に反した侵入であったということで、建造物侵入罪の容疑です。
ホームレス女性をレジ前に置き去り 嫌がらせ動画撮影の少女ら書類送検 建造物侵入容疑

この意思に反する建造物侵入罪の成否は、学問上は良く議論されていましたが、実際に発動するのは珍しく、非常に画期的だと思います。
SNS炎上は、今後徹底的に取り締まろうという警察の意思の表れのように思われます。

 

2 迷惑行為とSNSのアップで数百万円以上の賠償が発生するか?

スシローを経営するあきんどスシロー社は、迷惑行為を行った者に対し、なんと6700万円の賠償を請求する訴訟を提起しました。このような高額の請求は認められるのでしょうか?

迷惑行為の中でも、「バイトテロ」のように従業員がやった場合、その者は飲食店で働いている人ですから、店との間で雇用契約が成立しており、その契約内容の一つとして、当然店に無用の損害を与えないようにする義務があります。

そこで、この場合は、ツイッターの投稿によって店の評判が大きく落ちることになりますから、雇用契約の義務違反(これを債務不履行(民法415条)といいます。)として、損害賠償義務が発生することになりそうです。
雇用義務違反とは言えないような場合、また、そもそも従業員ではなく、客が同様の行為をした場合には、民法の別の制度である不法行為(民法709条)に基づいて、損害賠償を請求することができます。

実際に2013年に発生した、蕎麦屋のアルバイト従業員が洗浄機に入る画像をSNSに投稿した結果、その蕎麦屋が倒産してしまったケースがあります。
この事案では、つぶれた蕎麦屋が、アルバイトに対し、倒産したことによる損害1000万円以上を請求する民事訴訟を起こしました。
裁判所での調整で和解が成立し、事件に関わった4人で合計200万円程度の賠償を支払ったと報道されています。

損害賠償を求める民事裁判では、実際の損害額を計算して、その賠償を求めることになります。
損害賠償額には、店舗の清掃・消毒代といった費用のほか、売上の減少に伴う利益の減少額も加えることができます(材料費等の経費がありますから、売上減少額全体ではなく、利益の減少額が損害となります)。

全国的回転寿司チェーンや超大型コンビニチェーンを舞台とするような事件では、一つの店舗だけではなく、それらの大企業全体の評判を下げ、売り上げが大きく下がるといったことも考えられます。
このような場合、数千万から数億円といった莫大な金額の賠償請求も考えられることになります。

では、株価の低下自体をもって「会社の損害」といえるでしょうか?
確かに、スシローの株価は、大きく下がり、時価数百億円が失われたと報道されています。
しかし、これは、なかなか難しいかもしれません。
そもそもスシローがスシローの全株を持っているわけではなく、スシローの株をもっているのは、通常、大部分は他の株主や企業です。また、「投資」というアクションには、こうした下落リスクも含まれていると考えられるからです。

結局、スシローは、裁判に本格的に入る前に、加害者と和解を成立させました。
内容は「話せない。」と両者が言っていたので、話してはいけないという非口外条項付の和解が成立したのでしょう。

報道の論調だと、一切支払いはなかったというように聞こえますが、分割か何かで一定程度の支払い合意をするという内容だったからこそ、和解に応じたのではないかと考えます。

なお、上記の蕎麦屋の事件は和解で終わっていますので、判決が公表されてはおらず、計算の根拠等は不明です。
ただ、こうした事件では、訴えられた側もそのような者達なので、実際の支払い能力に限界がある場合が多く、実損額全ての賠償を得られないこともあります。

 

3 なぜSNS炎上問題が起こる?加害者になることの危険性は?

ところで、なぜ、このようなことが多発するのでしょう。
やはり、SNSで目立ちたい、フォロワーを増やしたいと思っているのでしょうね。
今、お金よりSNSのいいねやフォロワー数(つまり「人気」)の方が価値があると考える人も多いようです。
合法か違法か、妥当かそうでないかというスレスレの炎上的なツイートの方がいいねやフォロワー数が多いようです。
しかし、フォロワーを増やそうと「炎上商法」が行き過ぎてしまうと、ここまで述べたような罰が課され、社会復帰は容易ではありません。
炎上商法に手を出す人は、ここまで述べてきた法的責任を甘く考えているのだと思います。

だとすると、被害者側の会社としては、寛容であれば良いというわけではなく、断固たる対応をして、実際に加害者が重い責任を負うことになってしまったという前例を作り、公表していくことが大切になってきます。
加害者になろうとする者がこれを躊躇することになるからです。これは、ひいては、その後の被害者を減らす結果をもたらすことにもなります。

一方、加害者となってしまうと、損害賠償を支払う義務を負うだけではなく、犯罪者として処罰されたり、前歴が残ってしまったりすることもあります。
刑罰を受けなくとも、就職しているような人間であれば、雇い主から重い懲戒処分が下るでしょう。

また、最近では「巡回」と称して、SNS上の問題行動を吊るし上げる人達も増えています。
例えば、問題行動を行った者が本名や住んでいるところをSNSに公表された場合、家族すら危険に晒すことになってしまいます。
しかも、一度本名等のプロフィールをインターネット上に晒された場合、ほぼ永久に検索でヒットしてしまいます。デジタルタトゥーという言い方もしますね。
企業の人事担当者は、当然、まずは就職希望者の氏名をネットで検索しますから、就職や転職がかなり困難となってしまうのです。
この点は、SNSの迷惑行為を行う人は必ず頭に入れるべきであると考えます。

 

4 有名人がいたことをSNSにアップ プライバシーと侵害責任

このような明らかに悪意ある事件とは別に、悪気はなかったのに、とんでもないことになる事例もあります。
例えば、ホテルの従業員が、ホテル内のレストランに芸能人等が来ていたことをアップする行為です。
芸能人は私生活上の事柄についてSNSに投稿されてしまい、平穏な生活を妨害されていますから、プライバシー侵害というBの不法行為による損害賠償請求(民法709条)ができると考えられます。

問題は、誰がそれを支払うかという点です。
Y店には、従業員であるBの勤務中の行動を監督する義務があるので、使用者責任(民法715条)が成立し、Bと共に、Zに対して損害賠償義務を負うことになります。

芸能人だから、その行動は報道されたり、広く周知されたりしてもプライバシー侵害とならない、という主張がされることがあります。確かにそのような主張が認められる場合もあります。
しかし、この事件では、一般にプライバシーが守られることが期待される高級ホテル内のレストランという場所で、その従業員が盗撮をSNSに投稿しており、正当な目的も認められません。
要するに興味本位での投稿であったのですから、プライバシー侵害が認められるでしょう。

損害額の計算は難しいのですが、過去の事例では、有名なプロサッカー選手が、交際中の女優とキスをしている写真を掲載した雑誌社に対して、1200万円の損害賠償を請求して120万円の支払いが命じられたことがあります。
また、病気療養中の歌手の自宅内での写真を望遠レンズで盗撮して週刊誌に掲載した出版社に550万円の支払いが命じられたことなどがあります。

次に店と加害者の関係をみると、まず店は、被害者に支払った損害賠償金について、問題行為を行った当人に支払いを求めることもできます(「求償」といいます)。
ただし、YがBを十分に監督していなかった場合などは、Yにも落ち度がありますから、その額が一定程度に制限されます。多くとも30%ぐらいの求償が認められる感じです。

なお、Bを解雇することについては、勤務上の悪行為があったという合理的な理由がありますから問題はないといえます。

いずれにしろ、このようなアップ行為はなにげなく行っている可能性がありますが、やはりSNS上でさらされ、その後の就職等に大きく影響を与えることもあります。注意しましょう。

 

5 防止策は?くら寿司やスシローは回転寿司を終わりにする?

このような迷惑行為はどのように防ぐべきでしょうか?

前述のように、実際そのようなことがあった場合、断固たる対応に出ることで、企業がそのような方針であることが明らかになっていき、加害者が委縮してやらなくなるということはあるでしょう。

従業員がやらないようにするためには、会社規程上、そのような行為の懲戒ペナルティを極めて重く記載し、それを周知させるべきです。
そのために、そのような研修を行うこと等も当然対策の一環でしょう。

客がそれをやることを防ぐのは、全ての席に監視カメラ等を置くしかないですね。
開店寿司という業態は、他の客の商品もさらされている状態だから、このような迷惑行為が行われやすいのだと思います。風情はなくなりますが、「全部注文制」にし、寿司が流れているのは客の目にさらされていない空間にして、客に対しては目の前にいきなり出るようにすれば、迷惑行為は減ると思います。
このようにした方が、皆ができあがったばかりの寿司を食べられますし、ロスも少なくなるので良いと思いますがいかがでしょうか。もはや「回転寿司」ではなくなりますが…

その改造の費用もかかりますし、回転寿司業界としてはかなり迷惑な事件です。
それゆえに、この改造費用を賠償請求するということも考えられそうですね。

以上、いろいろ述べてきましたが、SNSというものが出現した今だからこそ起こる、新型の問題であると言えるでしょう。

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このことから、SNSのユーザーとしては、投稿する前に、その投稿内容に問題が無いか、自分のことだけでなく誰かが傷つくことがないか等、もう一度じっくり考えることが大切です。
とりわけ「炎上商法」は、自分にとって取り返しがつかない結果となることを本記事で学んでいただければと思います。

【2023.8.4記事内容更新】

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菊川 一将

菊川 一将

「弁護士法人アズバーズ」青梅事務所所長弁護士。 小・中・高校の10年間、バスケットボール一筋。2017年に弁護士法人アズバーズに入所。

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