後妻業と相続【幻冬舎ゴールドオンライン連載第11回】

新宿・青梅・三郷の弁護士法人アズバーズ,代表弁護士の櫻井俊宏です。
幻冬舎ゴールドオンラインの連載第11回では「相続」に関する記事を書きました。
生い先短い老人と結婚して,相続財産をごっそり持っていくことを通称「後妻業」というのですね。

黒川博行」先生の小説の題名のようです。
私も代表作の「疫病神」シリーズは読んでいましたが,「後妻業」という作品は知りませんでした。

この後妻業は,相続の法に沿って行っていれば,あらゆる意味で犯罪にあたるような要素はありません。
「相続」という制度の枠の中でどうにかするしかないと思います。

事例を示した後,


遺言について,
法定相続分について,
遺留分について,
遺言無効確認訴訟の難しさ,


等についてお話します。

幻冬舎ゴールドオンライン 弁護士櫻井俊宏の連載

 

1 後妻業の女現る!!

「えー!?」
70歳の父が再婚すると言い出しました。
父はガンを患い,余命はあと数年と伝えられていました。母はすでに亡くなっています。
驚きはしましたが、今後どんな人と過ごすかは父が決めることです。

幸せに暮らせるのならと、兄と私はその旨を伝えました。
「そっか、おめでとう!どんな人なの?同じぐらいの年齢?」
「近所の将棋教室で会ったんだ。20歳以上は年下だな」
(えっ…20歳以上下!? 私たちと同じくらい!?)

後日,その女性Aを父から紹介してもらいました。
腰が低くていい人に思えましたので,私たちは一安心しました。

それから1年の間,私たちは,父とAさんとは節目節目に会っていました。
ですが,父はガンの症状が悪くなってきて,入退院を繰り返すようになりました。
動くことも難しくなり,在宅介護の日々が続いたそうです。

そのころからです,Aさんが豹変したのは…
「あの人は『体調が悪くて会えない』と言ってます」
「じゃあ電話だけでも代わってください。心配なんです」
「それはちょっと…喋るのもおっくうなんです!あまりしつこく電話しないでください。迷惑です。」
連絡するとこの調子です。
たまに父と連絡が取れても,父はいきなり怒り出して電話を切る始末です。

もしかして,「洗脳」か何かされているのでは?
兄と私は不安でたまりませんでした。

さらに1年ほど経って,父は亡くなりました。
この期間,幾度か電話をしたり,訪問したりしましたが,ほとんど父と話すことはできませんでした。
今でも思い出すだけで辛いのは,私たちは父の葬儀にも呼ばれず,Aにより密葬で済まされてしまったことです。
どんな手を使ってでも父の傍にいるべきだったと後悔しています。

悲しみと絶望に暮れるなか,更に怒りが頂点に達する連絡がありました。
弁護士の書面と一緒に,父の公正証書遺言が送られてきました。
その内容はなんと
「すべての財産をAに相続させる」
というものでした。

私が住んでいる家は父からも少し費用を出してもらっていて,父には10分の1の共有持分があるのですが,その分も含めてです。
父がこのような遺言を作るはずがありません。
弁護士に相談したところ「遺留分」というものが請求できるそうです。
難しい戦いになるそうですが,遺言無効確認という裁判もできるそうです。
こうなった以上,弁護士を立てて,Aと徹底的に争うつもりです。

 

2 遺言について

遺言は,法律の世界では「遺言」と書いて「いごん」と読みます。

この遺言の中には,自分で手書きで書く「自筆証書遺言」(民法第968条)のほかに,公証役場で公証人という方に作成してもらう「公正証書遺言」(民法第969条)があります。

これにより,公証役場に遺言の写しが残ります。
公正証書による遺言であれば,紛失してしまうとか,見つけた人が破いて捨ててしまうといった自筆証書遺言に生じがちなトラブルの心配もなくなります。
各種遺言についてより詳しい話はこちら

また,最近,自筆証書遺言書保管制度というものが誕生しました。
その名の通り,自筆証書遺言について,登記等を統括する法務局に預かってもらうことができる制度です。
紛失等のリスクを防ぐことができます(遺言書保管法)。
遺言書保管法について

もし,公正証書等を作成せず,自筆証書遺言を作成するようであれば,遺言は原則手書きでないと無効であること,日付・氏名の記載が必要であること等に注意してください。
ただし,最近の法律改正で,どのような財産があるかを記載する「財産目録」については,手書きでなくても大丈夫ということになりました(民法968条2項)。

遺言の最後に,被相続人の思いを綴る場合があります(「付言事項」と呼ばれています)。
「特定の誰かに世話になったからその人の相続分を多くする」
「相続人みんなで力を合わせて家を守ってもらいたいから,このように分割する」
等の文章があることによって,相続争いを防ぐ効果があります。

 

2 法定相続分について

相続人の取り分は原則として法律で決まっています。

たとえば父親がすでに亡くなっている場合。
母親が死去したとき,子供2人の取り分は2分の1ずつが通常です。
これを法定相続分といいます(民法900条)。

配偶者と子供がいるときの相続分は配偶者が2分の1,子供が残りの2分の1となります。

子供が複数人の場合は,その2分の1を人数分で分割することになります。
たとえば子供が3人なら,6分の1ずつ。

なお,配偶者がいない場合には,子供だけで人数分に分けます。
すなわち、子供3人である場合は3分の1ずつです。

配偶者と親がいる場合には,配偶者が3分の2,親は3分の1です。

 

3 遺留分とは?

遺言が作成され,ある者に多く相続分が設定されたとしても,ほかの者がもらえる最低取り分を遺留分と呼びます。

被相続人の子供の遺留分は本来の法定相続分の2分の1です。

したがって本件の事例では,本人と長男の法定相続分は4分の1ずつ,遺留分は4分の1の半分なので,8分の1ずつとなります。

そこで「Aに全部あげる」と遺言を書いたとしても,遺留分がありますから「相続財産の8分の1を渡せ」と2人ともそれぞれ主張できるわけです。

もちろん,遺産をもらえないときは裁判所を通した裁判もできます。
遺留分は,被相続人の子供や配偶者の割合は法定相続分の2分の1,被相続人の親の場合は法定相続分の3分の1です(民法1042条1項)。

本件の事例でも,とりあえず,この遺留分を主張していくことはできます。

遺留分の主張をする際,法定相続分よりも多い相続を受ける当事者に対し,「遺留分侵害額請求」という意思を表示する必要があります。
「遺留分侵害額請求権を行使します」と記載した手紙を送るわけです。
証拠として残る形がよいので内容証明郵便で送るのが望ましいでしょう。

遺留分侵害額請求権は,相続の開始および遺留分を侵害する贈与,または遺贈があったことを知ったときから1年間行使しないと,時効によって消滅しまうので注意が必要です。

遺留分制度の改正

 

4 遺言無効確認は難しい!?

遺言の無効を主張するには 本件の事例のような場合,Aが遺言を無理矢理作らせたとして,そもそも遺言が無効であるという主張も考えられます。
すなわち父が重度の認知症であり,それにも関わらずAが祖父を公証役場に連れていって,公正証書を作らせたという主張です。
この主張はなかなか大変です。というのは,公証役場という公共の団体において,公証人という地位のある人間が立ち会って作成した以上,公正証書遺言の内容は原則として有効であるからです。

自筆証書遺言の場合には,筆跡が違うケース等も考えられ,ほかの者が作成したものとして無効となることもあるでしょう。
しかし、公正証書の場合は、被相続人は自分で書くわけではなく、立ち会って内容を確認するだけで、実際に作成するのは公証役場の正式な公証人です。
このことから,無効を主張するには,作成したときに重度の認知症であること等を証明する必要が生じます。

遺言無効確認の裁判を提起して,その時期のカルテや第三者・公証人の証言等をもとに,作成した時点で祖父が重度の認知症であることを証明する必要があります。
裁判例上、無効が認められるケースは非常にまれです。

 

5 最後に

以上で解説してきたように,相続で一度紛争が発生した場合には,相続人同士,二度と会いたくなくなる事態にまで発展します。
離婚等と同様,まったく知らない同士の紛争よりも親しかった者同士の紛争のほうが,憎さ100倍になるようです。
相続人間で戦うことになってしまった相続を「争う」に家族の「族」で「争族」などと言ったりします。
「争族」にならないようにするには,まず遺言を準備する等,早め早めの対策が必要です。

 

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弁護士 櫻井俊宏
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