交通事故と後遺障害 【二・6】後遺障害逸失利益について⑴

【本稿の趣旨】
・後遺障害を負った場合,逸失利益が損害として認められる。
・症状に応じて逸失期間が制限される場合がある。
・逸失利益は事故前年度の年収×逸失率×逸失期間に応じたライプニッツ係数で算出される。

後遺障害逸失利益とは,後遺障害を負ったことによって将来得られるべき利益が失われることとなりますが,その利益のことです。

⑴ 逸失率
後遺障害を負ってしまった場合,その程度に応じて将来の仕事に支障が出ることとなります。
そうすると,例えば本来100の仕事をして100の利益や給料を得ることができたのに,後遺障害によって95の仕事しかできなくなり,報酬や給料もこれに応じて減額されることによって,差となる5に相当する利益を失ったと言えます。これが逸失利益です。また,症状に応じてこの差は変動してきますが,これを逸失率といいいます。
この数値は後遺障害等級に応じて設定されています。例えば14級の場合は5%,12級の場合は14%,1級の場合は100%です(1級事案の被害者は完全な植物状態など生存すら危ぶまれる状態ですので,働ける余地がありません)。

⑵ 逸失期間
後遺障害は,その定義からして,一生残存するものであることが基本です。
ただし,後遺障害には臓器摘出や四肢欠損のような重度のものもあれば,画像所見のない神経症状のような比較的軽微なものまで種々あります。
特に神経症状の場合には,年単位の時間経過で治癒するか,もしくは完全に慣れてしまうことがあります。そうすると,例えば20歳の頃に追突事故を受けて,その後就労可能年齢となる67歳までずっと逸失利益が発生し続けるというのは不当です。
そのため,特に神経症状の場合には,その逸失期間は制限されています(14級の場合は5年程度,12級の場合は10年程度が多いです)。

⑶ 後遺障害逸失利益の計算
後遺障害逸失利益は,原則として事故前年度の収入を基礎として,将来どの程度の逸失利益が認められるかという視点から計算します。

そうすると,向後1年間の逸失利益については,

事故前年度の収入×逸失率

で計算されます。これが1年あたりの逸失利益ですから,これに逸失期間を考慮したものが後遺障害逸失利益となります。

さて,この期間ですが,例えば5年と認められた場合に,単純に5をかければいいというものではなく,その期間に対応したライプニッツ係数という数字を欠けることで行います。例えば逸失期間5年の場合のライプニッツ係数は4.3295です(詳細は下部※1)

ただし,令和2年4月1日以降に発生した交通事故に関しては,法定利率が3%に下がったことに伴い,ライプニッツ係数が被害者に有利なように変動しています。4月1日以降の事故であれば,これまでより多くの損害賠償が得られる,と言い換えられるかもしれません。

以上より,後遺障害逸失利益の計算式は,

前年度の収入×逸失率×期間に応じたライプニッツ係数

で計算されることになります。

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※1
後遺障害逸失利益は,将来失うこととなる利益を,損害賠償請求の時点で一括して請求するものです。
そうすると,加害者側は,理論上,一括して支払わなければそのお金を運用して利益を得られたのではないか,という発想が生まれます。
そこで,平たく言えば,そうした加害者側が受けるべき利益を控除して期間を設定することが必要とされるわけです。
この計算は極めて複雑ですから,実務では期間に応じて既に計算された結果を用いることがほとんどです。この,期間に応じて設定された数値を「ライプニッツ係数」といいます。