交通事故と後遺障害 【二・7】後遺障害逸失利益について⑵

【本稿の趣旨】
・逸失利益は個々の属性に応じて検討すべき点が異なる。
・直接収入がなくとも逸失利益が認められることがある。
・実際の減収がない場合には争いが大きくなる可能性がある。

逸失利益は,被害者が会社等の従業員の場合が典型的ですが,そうでないケースもあります。この場合,「基礎収入」をどのように算出するかで争いとなるケースがあります。また,そもそも減収がない場合には少々難しい問題になります。

⑴ 主婦(夫)
比較的多いケースは,(専業)主婦が後遺障害を負うケースです。
主婦は直接収入を得ているわけではありませんが,主婦が主婦業をすることによってその配偶者の助けとなっているわけですから,主婦業にも経済的価値を認めるべきです。
具体的には,厚生労働省が毎年発表する「賃金センサス」というデータを用いて,主婦の基礎年収を概算できます。

⑵ 無職者
無職者は収入を得ていないわけですから,基礎とされる年収を観念できません。しかし,無職者にもいろいろあり,いわゆるニートのような方ばかりではなく,たまたま失業している方もいます。そうした場合には,事故から近いうちに就職したり収入を得られる蓋然性(可能性のようなものです)を検討し,逸失利益が認められる場合があります。

⑶ 若年者
小中学生や高校生,場合によっては大学生の場合,基本的には無職者と同様,基礎年収を観念できません。しかし,これらの者は将来的に職を得る蓋然性が高いものと判断できますから,原則として逸失利益を認めるべきです。
ただし,その年齢や学歴,具体的状況に応じて,将来の可能性をどの程度考慮するかという点は変わってきます。この場合の基礎年収は,賃金センサスによることが多いですが,具体的な数値は個別事情によって変わってくることがあります。

⑷ 社長・役員
会社の社長や役員は,法律上・契約上,働けなくなったからと言って直ちに報酬が減額されるわけではありませんので,将来に渡る減額がないと判断されることがあります。
しかし,大企業の役員ならばともかく,中小規模の会社では社長や役員も従業員と変わりなく働いているのが通常ですから,こうした判断は不当です。
この場合には,その報酬は従業員としての労働部分と役員としての報酬部分に分けて考えることができます。このうちの前者の部分については逸失利益を観念できるわけです。
両者の割合は,具体的な仕事の内容や労働の内容,報酬額によって異なってきます。

⑸ 減収がない場合
例えば,公務員は法律でその年俸が定まっており,それは基本的に減額されることがありません。また,会社によっては後遺障害を負って仕事に支障が出たとしても給料を減額しないような温情的な会社もありえます。
このような場合,減収がない以上,原則として逸失利益は否定されそうです。
しかし,将来ずっと会社が存続するとも限りませんし,社長の変更等の予期できない事情によって減収が発生する可能性がありえます。また,減収が生じていないのは,被害者が無理をして働いているからと言う可能性もありえます。
そのため,必ずしも容易ではありませんが,被害者に有利な事情を主張・立証し,逸失利益を認めさせるよう動いていくことで,逸失利益が認められることがあります。

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