東名あおり事件と危険運転致死傷罪について

菊川 一将
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こんにちは。青梅に来てから車の利便性をひしひしと感じている弁護士菊川です。

現在,法曹関係者以外の方も含めて,最も注目されている法律事件の一つであると思われる東名あおり事件ですが,先日危険運転致死傷罪の適用が認められ,懲役18年の判決がくだされました。
私の感情的見解はあえて多くは記載しませんが,被告人の行ったことは決して許されるものではありません。彼に与えられる刑罰としては,結論的には適切であったと思っています。

求刑を下回った判決がくだされたことに対する指摘が多く見られるところですが,本件は,弁護士の立場からしてみると,それ以上に,「そもそも危険運転致死傷罪を適用できるのか」という点に注目せざるを得ないところです。

危険運転致死傷罪は,「危険な運転をしたらダメ!」という単純な構造ではありません。罪刑法定主義といって,刑罰を与えるための法律はその成立要件をかなり具体的に規定しなければならず,その法律に規定された要件を厳格に満たした場合でなければ適用できないという立憲国家には必須の考え方があります(この考え方がなければ,「国が気に入らないことをしたら死刑」「人が困ることをしたら懲役」という法律も作ってよいことになってしまいます)。

誤解を恐れずに言えば,「あなたが危険だと思う運転行為」ではなく,「法律に規定された運転行為」が刑罰の対象になるということです(そうでなければ主観的に危険だと思う行為をされたらすべて危険運転致死傷罪になってしまいます)。

危険運転致死傷罪も同じです。これは,「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」の第2条に規定があります。本件で適用が検討されたのはその4項と思われます。要件は,

①人または車の通行を妨害する目的(通行妨害目的)
②走行中の自動車の直前に進入し,その他通行中の人または車に著しく接近(妨害運転)
③重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転すること(危険速度運転)
④①②③と被害者の死傷との因果関係

の4つです。

これらのうち,①②は問題なさそうです。④は難しいところですが,平成16年10月9日の最高裁判例に基づけば,要件を満たすと考えてよいと思います。

本件で最も大きな問題は,③の要件の充足性だと私は考えます。

本件は停車中の事故ですので,日本語を自然に読めば③の要件を満たすことは考えられないためです。

本件の事実関係から本条を適用するにあたっては,本条の構成要件は,「通行妨害目的による妨害行為そのものを危険速度で行う」ことで足り,「結果発生そのものは必ずしも危険速度での運転中に発生しなくてもよい(一連の流れの中で発生していれば足りる)」と解釈する必要があると考えます。自然な日本語の読み方ではありませんが,この解釈が許されるのであれば,適用もありうると考えます。

ただ,少々ドラスティックな解釈ですので,それよりも監禁致死傷罪の適用を検討してもよかったのではないかと思っています。現に監禁致死傷罪の予備的起訴もしていたようですし。

どの紙も言っていることですが,本件を鑑みて,法律改正は不可避と考えます。このような法律論をこねくり回さずとも,被告人の行為は絶対に許されるものではないのですから,それが罰されることに疑義を入れる余地があるべきではないと思うのです。

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菊川 一将

菊川 一将

「弁護士法人アズバーズ」青梅事務所所長弁護士。 小・中・高校の10年間、バスケットボール一筋。2017年に弁護士法人アズバーズに入所。

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