公序良俗違反と代金~仕事をしたのに代金がもらえない!?

別れさせ工作の有効性に関する裁判例が出されて話題を呼んでいますね。

判決は要するに,「(本件)別れさせ工作は公序良俗に反するものではない」と言っています。

まず,「公序良俗」とは,「公の秩序または善良な社会風俗」のことを言います。これだけでは全く説明になっていませんが,要するに,「現代の一般的・社会常識に適合ないし大きく逸脱しないもの」を指すと言えるでしょう。

そして,民法では,契約自由の原則に基づき,いかなる契約も原則的に有効ですが,公序良俗に違反する内容の契約は無効とされます(民法90条)。ざっくりいうと,(著しく)違法・不当な債務を内容とする契約は無効とされます。

「契約の無効」とは,その契約に基づく債務の履行を相手方に請求できないことを言います。

例えば,AさんがBさん(殺し屋)との間で,Cさんを殺害することを依頼し,その代価として3000万円を支払うという契約を結んだとします。
この契約は,人の生命を害することを内容とした契約ですので,問答無用で公序良俗に反します。
そうすると,AさんはBさんに対して,この契約に基づいてCさんを殺害するように請求することはできないし,BさんはAさんに対して3000万円を支払うよう請求することもできないのです。

更に,Bさんが自己の債務である「Cさんの殺害」を履行したとしても,BさんはAさんに対して3000万円の支払いを請求できないですし,AさんがBさんに3000万円を支払ったとしても,AさんはBさんに対して「Cさんの殺害」を履行するよう請求できないことになります。

要するに,Aさんにとっては払い損,Bさんにとっては働き損ということになるわけです。一見詐欺のような気もしますし,詐欺といえるかもしれませんが,裁判所は力を貸してくれないでしょう。

さて,上記の裁判例は,Bさんが探偵として別れさせ工作という債務を履行したが,AさんがそもそもAB間の契約は公序良俗違反の契約であると主張してその代金の支払いを拒んだものです。

なんだかしっくりこない主張ですが,公序良俗違反の契約というものに法的効力をもたせてしまうと,裁判所が違法な権利の実現に手を貸すことになってしまってよろしくないという考え方が根底にあります。これはもっともでしょう(先の例のケースで,Bさんが裁判所に対して3000万円を請求したとしても,認めるべきではないでしょう。そもそも殺人罪です。)

裁判例では,具体的な事実を認定して,別れさせ工作は公序良俗に反しないと判断しましたが,全ての別れさせ工作が公序良俗に沿うといっているわけではありません。業界内でも別れさせ工作は慎むようにという指導がされているようですから,今後公序良俗違反であるという裁判例が出されないとも限りません。

なお,仮に別れさせ工作が公序良俗違反であると判断されたとしても,裁判例の場合,既に支払っている50万円については返還を請求できません。これを不法原因給付といい,民法708条に規定されています。違法なことに手を染めた者に対して法は助力しないという,クリーンハンズの原則です。

別れさせ工作のご依頼は慎重に。
というか,そもそもそのような状況にならないようにしたほうがいいかもしれませんね。